ナガノヤスユ記

ムーンライトのナガノヤスユ記のレビュー・感想・評価

ムーンライト(2016年製作の映画)
3.5
誰かに与えられた名前を捨て、本当の自分(そんなものがあるとして)になれる瞬間など、長く険しい人生の中に一体何分間訪れるというのだろうか。僕はそんなもの必要ないと思ってしまうタイプではあるけど、それもまた偏狭で、能天気なことかもしれない。

月の光に照らされて青く輝く、ふん、なるほどとは思ったけど、今一歩物足りなさはある。
物語終盤の一際肝要なあの場面、あんなに明け透けに、あれ以来一度も触れられていない、だなんて、言わせる必要あったのかな?
もし万が一、シャロンというキャラクターの真性を担保するために、あの台詞が必要だと考えたのだとしたら、それはまたとても狭量なことであると思う。この作品が踏んだ無意識のブレーキ、思想の限界があの瞬間に集約し、不意にかいま見えたような気がしてならない。アカデミー賞まで与えられた本作のことだから、僕の思い過ごしであることを願う。願うよ。