真田ピロシキ

ムーンライトの真田ピロシキのレビュー・感想・評価

ムーンライト(2016年製作の映画)
3.7
Amazonのレンタル期限ギリギリで気が乗らず義務的に見始めたのに中盤からは引き込まれっぱなし。

LGBT映画に分類されるが自分が本作から感じ取ったのは人が自分の意志ではなく環境によって人間を形成される無常感。「道を踏み外したのを環境のせいにするな。私は真人間になれた。」みたいな事を臆面もなく言える人は何も分かっていないし誤った人間を自己責任と断罪できる。

主人公シャロンは体型や歩き方がオカマっぽいという理由で酷いイジメを受けててヤク中の母親にも自尊感情を貶められている。近所では顔の広いファンとその恋人のテレサが逃げ場所であったが所詮売人の彼では親にまではなれない。高校生の時に限界に達したシャロンはイジメの主犯格であるレゲエ野郎を後ろから椅子で殴打。分かるよ。こんな弱いものイジメでしか自分を誇示出来ない低脳カスにはこうするしかない。その結果として少年院に送られたシャロンは黒人お決まりの転落コースでヤクの売人に。クズどもに人生を破壊されるか、でなきゃ自分で人生を破壊するかの選択肢しかなかった。シャロンがクスリを売っている事によってクソみたいな環境が残り続け別のシャロンが生み出されていくのだろう。シャロンの救世主だったファンも加害者と言える無間地獄は哀しい。

人をゲイだからと差別してはいけない。それは当たり前で更に根深いものを感じる。誰かをねじ伏せる腕力を良しとするマッチョイズムへの嫌悪感。こうした一面的な強さは未だ漫画やアクション映画でカッコよく消費され続けていてそうしたものはやはり悪影響を与えているんじゃないかと。この思想は意識していても面白いと感じるのが厄介で。典型的売人らしい筋骨隆々となったシャロンが最後にもたれかかるのが救いとなるのか。話にばかり集中してて詩的な演出にはあまり気が向いてなかったのは勿体無いことしてる。