ベルベー

女神の見えざる手のベルベーのネタバレレビュー・内容・結末

女神の見えざる手(2016年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

ビックリするくらい面白い!物語の根幹は「銃規制」。毎年のように痛ましい事件があり、なぜアメリカは銃にこだわるのか…?と日本人的には不思議でしょうがないのですが。規制するにも中々上手くいかない絡繰がこの映画では描かれる。多くの基礎票と金を掴んでいる大物たちの顔色をうかがう政治家たち、それでは規制は上手くいかないのか…という現状に、ジェシカ・チャステイン演じる「毒を持って毒を制す」を体現しすぎな強烈ロビイストが立ち向かう。

この主人公、ミス・スローンが凄いキャラをしている。上司にもクライアントにも強烈な物言い。部下にもシニカルな例え話で説教、不眠症どころか寝ない為に薬を飲んでる始末。更には欲望を満たすために男を金で買い、トラウマ持ちの同僚を利用するという…銃規制側にこそ立っているけど、「ソーシャル・ネットワーク」や「ウルフ・オブ・ウォール・ストリート」顔負けのとんでもない女なのだ。勝利と栄光、そして性を得る為に手段を選ばない彼女には「この野郎!」という表現がしっくり来る。正義の味方なのに。

演じるジェシカ・チャステインがまた超名演技。セクシーなんだけど「ゴツい」としか言いようのない所作。声だけはやたら高いのが歪でまた良い味。強烈な発言を繰り返し、全ては彼女の術中…と思いきやそうでもない…?いや、やっぱりやられた!!という、周囲をブンブン回す独走ぶり。でも人前に出るのが苦手で、焦燥感に囚われたり、失敗することもある。部屋で1人で叫ばないとやっていられない時もある。そんな人間臭さも兼ね備えた、最低なんだけど惹きつけられる、大変魅力的な主人公でした。

そんなスローンと、これまた邪悪な企みを胸に秘めたロビイストや政治家たちとの対決。ようこんなに言葉がスラスラ出てくるな!な舌戦には大いに笑わされる。スローンのトンデモなさに唖然とする同僚たちも面白い。この作品コメディ要素も強いのです。ロビイストたちの性格と口が悪すぎて笑。神父様の例え話とか、「フグ来るぞフグ来るぞ…フグ来たー!!」とか、冷静にアドバイスしてくれてた弁護士の時系列的初登場シーンは「だから俺あいつ止めろって言ったじゃん!!はぁぁ!?」というマジギレシーンだとか、やたらインパクトの強い名(迷?)場面が散りばめられています笑。

シリアス方面でも魅せてくれる。スローンの加減を知らないやり方に、雇い主のロドルフォはじめ同僚たちがいよいよ恐怖を感じる。会社に紛れ込んだスパイを見つけたのはいいものの、そのやり方がアウトだったり、銃撃事件の被害者というトラウマを持つエヌメを広告塔に引きずり出して、結果命の危機にまで晒したり。「襲撃者さえもあなたの差金なのでは」というエヌメの怒りも尤もで、後ろ暗い部分が多すぎるスローンはそこを敵に突かれることに。しかし、その敵のやり方も脅迫を初めとして反則・卑怯この上なく、国民のことなんて全く考えてないクズさなので観客は大いに怒りを覚えるのだが。危険人物に銃が行き渡らないようにする、そんな然るべき提案が「自由と安全の侵害」にすり替えられ、感情的に銃規制反対に流れる国民にもイライラしつつ…スローンでも、この国の矛盾した安全意識を変えることはできないのか。

ところが急転直下、物語は意外かつ鮮やかな結末を迎える。思い返せば怪しい伏線なのに、自分はまんまと騙された笑。だってアリソン・ピルが憎たらしい元部下役ピッタリなんだもん…← かくして勝利を収めた銃規制チーム。しかしスローンは収監され、これは彼女にとっての勝利だったのか?と思いきや、「命捨てるくらいならキャリア捨てるわー」と案外悟った様子。というより、この一件は全て、安息を得たかったスローンの掌の上だったのか…?物語にはスッキリした決着を付け、スローンの底知れない不敵さを最後に見せて終わる。「Miss Sloane」なんて大胆なタイトルがピッタリ!な良い終わり方でした。「女神の見えざる手」っていう邦題も割と好きだけどね。

社会問題に切り込んだ堅実な作品かと思いきや、サスペンス的面白さに満ち溢れた痛快エンターテインメント。ユーモアあり、手に汗握る駆け引きあり、魅力的なキャラクターあり。スピーディな展開で、転換点を定期的に配置してあるので、132分集中して見られる。専門用語やら人名やらがハイテンポで飛び出すので分かりづらい部分もあるが。ジョン・マッデン、「恋に落ちたシェイクスピア」の監督ってイメージだけで終わるには勿体ないですよ!
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