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アンダー・ザ・シルバーレイクのnetfilmsのレビュー・感想・評価

4.1
 若者はきびきびと歩かず、アパートまでの道のりをいかにも重い足取りで歩く。夏の湿気を纏ったTシャツ姿の男は「家賃滞納により、5日以内に出ていかなければ強制退去」という最終宣告を何事もなかったかのように捨て去る。厳しい現実が見れない男は双眼鏡片手に、おもむろに中庭に目を向ける。その姿は迷子の彷徨者と呼ぶに相応しい。アルフレッド・ヒッチコックの『裏窓』のジェームズ・スチュワートのように、ブロンド女の痴態に目をやった若者の好奇心は、小型犬を連れて帰って来た向かいのサラ(ライリー・キーオ)という女性に目を奪われる。誰かを覗くという好奇心は対象との甘美な距離感が主人公を中毒にさせるが、今作ではザッピングしたビデオテープとクスリの効き目がサム(アンドリュー・ガーフィールド)をひたすらハイにさせる。幻のような美女の失踪劇を描いた今作は、ハイ・カルチャーではなく、サブ・カルチャーに身も心も痺れた若者の狂乱の1週間を綴る。それは見事なまでの夢うつつな夢遊病者の姿に他ならない。

 戦後の『裏窓』や『めまい』を通過した70年代ポップ・カルチャーの幻視者で体現者は、まるでトマス・ピンチョンの小説『LAヴァイス』の主人公の行動のように要領を得ない。湿り気を帯びた街並みはフィルム・ノワール的な闇と水のイメージで若者を眩惑する。昼と夜、富と名声、甘美さと恐怖。それらを包括する東LAのシルバーレイクの街並みが醸し出すアメリカの光と影。ブロンド女の光り輝く艶やかな髪さえも厨二病的な病巣でまるごと包み込み、憐れむ。フランク・ボーセージの『第七天国』、カート・コバーンにローレン・バコール、フェアバンクスの眠るハリウッド・フォーエバー墓地、ディルド・オナニーにフォード・マスタング、ビションフリーゼにスカンクの最後っ屁。『女房は生きていた』のマリリン・モンローのような女の面影。ジャネット・ゲイナーの墓にホームレスの王にホーボー・コード。ドン・シーゲルの『ボディ・スナッチャー』を見つめる主人公の病巣は、やがて奇跡的に女の面影の深淵に迫る。厨二病版『マルホランド・ドライブ』はアンドリュー・ガーフィールドの面目躍如で、曖昧模糊としたLAの陰影を静かに立ちのぼらせる。それゆえにラスト30分がそれまでの濃密な展開に対し、いささか低調なのは勿体ない。
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