映画大好きそーやさん

あたしだけをみての映画大好きそーやさんのレビュー・感想・評価

あたしだけをみて(2016年製作の映画)
3.5
ストップモーション・アニメーションで紡がれる、「思い出」と「今」の優先順位。
まず、ストップモーション・アニメーションの出来が素晴らしく、それだけで鑑賞価値があると断言できます。
ヌルヌル、グルグル動き回るアニメーションは不穏な雰囲気を的確に演出し、しっかりと独自の世界観の構築を支えていました。
ただ内容としての真新しさはなく、拡大解釈的に作品意義を読み取った結果、冒頭のような表題を付けることにしました。
スマホになったモルモット、そして隣の席で女子会をしていた女性は「思い出」に象徴され、目の前に座っている彼女らしき女性との「思い出」を重ねさせます。(全編通して観ると、モルモットは最初からスマホとして機能していて、比喩的に男性(主人公)がよそ見していたことを示していたことがわかりましたね)
きっと出逢った頃は彼女らしき女性のことも隣の女性のように綺麗に見えていたのでしょう。
段々と同じ時間を共有していく中で、隣を歩くことが普通となっていき、どこか浮ついた気持ちが芽生え始めたのです。
もっと綺麗な人がいるのではないかと考えたり、もっと優しくしてくれる人がいるのではないかと考えたりと、あれこれ邪念が生まれていく様を漫画的誇張表現、あるいは現実的なあるあるとしてアニメーションに落とし込み、そのような邪念からの脱却が本作の筋であると、私は解釈しました。
言うまでもなく目の前に座る彼女のような女性が「今」を背負い、幾度となく「思い出」によそ見する彼氏(主人公)を蛇のように睨みつけます。
蛇というと、あまり良い印象を抱きません。これはある種のミスリードとして作用し、行きつくラストへのツイストに貢献していました。
終盤でホラーのような展開を見せるのも非常に興味深く、この先には何が待っているんだと、観客側の好奇心を掻き立てます。
この辺りの創意工夫は、1本の作品としての評価をグンと高めることにつながっていましたね。
「思い出」の呪縛を「今」は打ち破ることができたのか。YouTubeにて無料で観ることができますので、是非未鑑賞の方はお時間を作って見届けてみて下さい!
総じて、アニメーションのクオリティに舌を巻く、「思い出」と「今」の対立といった、普遍的なテーマ性を内包した作品でした!