天津甘栗

太陽の塔の天津甘栗のレビュー・感想・評価

太陽の塔(2018年製作の映画)
3.7
「人類の進歩と調和」と聞くと、大阪万博よりも20世紀少年を連想する世代です。

本作は20数人のかしこが太陽の塔について語るドキュメンタリー。
中でも民俗学者赤坂憲雄さんが最も印象的でした。すごく静かな優しい口調なのだけど、激しい怒りの熱を帯びた苛烈な言葉選びで手厳しい論を語っておられます。

高度経済成長の熱気が渦巻き、盲目的に世界的祭典に酔いしれたEXPO70。
時は、TVの中の世界、宇宙船、コンピュータ、動く歩道に目を輝かせ、心躍らせる、外国人すらものめずらしい時代。

万国博覧会とは、産業や技術の進歩は人間にとって幸せになる最善の道で、正義。そのため我々は発展しなければならないという価値観のもと、資本主義思想のど真ん中を形成する催し。
…そんな楽観的未来志向、技術礼賛に対して先見の明を持ち、本当にそうなのか?果たしてそれは人類にとって良いことなのか?と疑問を呈した逆説的なモニュメントこそが、EXPO70のランドマークである岡本太郎作「太陽の塔」でした。
「太陽の塔」それは決して発展の象徴などではなく、こじんまり予定調和のハリボテのような発展できれいに機能的にまとまる感覚をぶち破り、うちなる原始人の解放を求める、日本人と人類へ真に捧げた巨大な供物。

そして50年余りを経て来年大阪万博が帰って来ます。
EXPO70以後の発展という名の狂騒の結果、様々な経験があり日本社会にはどん詰まりが見えていて、従来通り走り続けることはもはや限界だと誰しもがそれに気付いている時代。
そんな今の世の中にとって、2025大阪万博はEXPO70をリフレインするような在り方ではいけないと本作を観て改めて感じました。

岡本太郎がいない今、新たな「太陽の塔」が存在しない2025大阪万博において、考えるな、忘れろ、無かった事にしようと自発的隷従を加速させてはいけない。
目指すべきは成長ではなく成熟。個々の精神性が去勢される事なく、一人ひとりが自由に生きられる社会を次の世代に繋ぎたい。
ちっぽけな存在だけどそんな大それた考えが切によぎる毎日です。
天津甘栗

天津甘栗