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退屈な日々にさようならをのsskのレビュー・感想・評価

退屈な日々にさようならを(2016年製作の映画)
4.1
昨今は恋愛群像劇の映画で頭角を現してきた超個人主義的な作家、今泉力哉の新作。
前作『知らない、ふたり』では「好きとは何か」というテーマのそれまでの映画より一歩先の考察を描いていたが、今作は「死生観」で恋愛とは少し結びつきにくい主題設定になっている。
"人の死を知らないのであれば、その人は彼/彼女の中では生きているのではないか"
ある二人の男の死を契機に、彼らを取り巻く友人、兄弟、恋人に起こるドラマを群像劇として描いている。
中でも重要な関係性をもつ同じ男を好きになった二人の女は、ひとりが彼と生を共にしていたことで、彼の死が彼の生を証明する訳で、もうひとりは彼の死を知らずに帰らぬ人を待っていたのに、その死を知ったことで心の行き場を失う。最終的に同じ地点に辿り着いたはずであるが、見える先は前者と後者では大きく異なるのが面白い。無論、後者の方が開けていることを劇中でも物語っている。
また映画内で登場する女子高生の恋の一幕では、自分の好きな人への恋慕が叶わなかったことを理由に彼を殺して土に埋めた彼女が、ショベルカーを動かして空き地の地面を掘り起こすという滑稽話であったが、死者は蘇らないという当たり前の事実をこの一連のドラマの中で前景化させて、その死生観を閉じているのが圧巻だ。
絵として面白かったのが、その女子高生が恋した男の部屋の場面、パッケージのワンシーンだったがあのハーレムはあの男の人生の顛末を皮肉的に描いていたのだろうか、と未だに気になるところ。おそらくは女たちが部屋から飛び出すカットは今作のタイトルを象徴しているのだろうが。
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