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スリー・ビルボードのsskのレビュー・感想・評価

スリー・ビルボード(2017年製作の映画)
4.4
フランシス・マクドーマンド演じるミルドレッドに比べれば、 私たちはあまりにも情けなく小さな人間である。声を上げる勇気もなければ、重荷を背負っていく覚悟もない。映画の舞台がもし、田舎街ではなく、国全体だとしたら話はどうなるだろうか。「なぜ?トランプ大統領」みたいな感じになるのだろうか。しかし「("ただ"の)田舎の白人女性のレイプ事件」に対して、今やアメリカ社会は殆ど興味を示さないのは事実としてあるのだ。

さて、
僕はこの皮肉たっぷり(愛嬌たっぷり)に社会を見つめた映画が好きだ。まず、個人的感情で行動する警察や国家権力、共通認識についての半強制的な同調圧力、メディアのあり方とそれに対するリテラシー、遍在する差別意識、など映画内に散見される社会的関心をあげて言ったらキリがない。これが、何とも馬鹿馬鹿しく演出されるのは痛快だ。

しかも脚本として素晴らしい。特にディクソンとレッドという、対照的な若者たちは希望である。この二人を象徴的に描いたことは大きい。そして何にせよ、こんなに解釈に振れ幅がある映画はなかなかない。展開のユーモアや、ニューシネマみたいな終わり方も斬新だ。


先程、見所あるfilmarksの他ユーザーたちの感想をいくつか覗いてみた。
「ミルドレッドはやり過ぎである」「自己中心的で他者配慮に欠ける」
どうだろうか?
私たちは、誰一人として傷つけたくないがために静かに沈黙しているはずなのに、それとは全く無関係に、誰かが大きな痛みを背負わなければならないのは、一体どうしてだろうか?

(ミルドレッドが何も大義に則ってあんな態度でいるとは皆目思っていないが、家族を失うようなことでもなければ、誰も社会に意見しようなどとは思わないのである。)
p.s. アカデミー賞のマクドーマンドの受賞の様子、最高でした。
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