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台北ストーリー(1985年製作の映画)
4.3
 カーテンもない大きな窓枠のだだっ広い部屋、静寂の中で2人は付き合いたてのカップルのように浮き足立つ様子も見せない。サングラスをしたアジン(ツァイ・チン)は不動産ディベロッパーとして働くキャリアウーマンで、この部屋のことを一目で気に入る。彼女が描くこの部屋の青写真、恋人であるアリョン(ホウ・シャオシェン)は険しい表情でメンテナンスが必要だと伝えるが、彼女は気にも留めない。それから何日が経過しただろうか、生活感に溢れた彼女の物がこの部屋を埋め尽くす。1980年代台北、高度経済成長真っ只中の台湾の首都、キャリアウーマンのアジンは幼馴染のアリョンと長く恋人関係にある。2人の未来は順調で、女は結婚を意識しているが、男は過去に囚われていた。野球のリトルリーグの元エースとしてならした男の幼少期、その華々しいキャリアを捨て、男は家業の布問屋の跡取りとなった。会話のないプライベート、帰りを待ち侘びた女の感情はぶっきらぼうなパートナーの返しに戸惑う。実は彼女の会社は買収の憂き目にさらされていた。倦怠期のカップルの物語を、経済成長著しい80年代の台湾を舞台に描いた1組のカップルの顛末は、過去に囚われる男と未来を見据える女とを対比的に描く。

 過去に囚われた男と、未来を見据えた女との恋は最初から不安めいている。2人の蜜月は一切明かされることがないまま、女の夢に首を縦に振らない煮え切らない男の姿がある。サングラスで隠した瞳と、唇が印象的なアジンは妻子持ちの会社の上司に言い寄られるが、その誘いには乗らない。一方、無防備なアリョンは東京に残した元カノとの関係をアジンに咎められる。四角関係に縛られた男女は、時代の変遷の中で戸惑う。薄曇りを飛ぶ飛行機、回転ドアの前で戸惑うヒロイン、富士フィルムとNECのネオン管とバイカーに着せられたコート。母に渡した10万元の行く末を知らないヒロインはアリョンとの幸福なアメリカ生活を夢想するが、彼の見立ては残酷で容赦ない。元カノに「メルヘンの世界の住人」と言い捨てられた男の焦燥は都市部の交通渋滞に苛立ち、バレリーナを抱えた男役の原寸大の腕に自らを重ねる。ダーツやトランプなど一切の賭け事に敗れ、自暴自棄になる男は結婚を夢見た最愛の人に対し、「結婚は万能薬じゃない」と吐き捨てる様に言い放つ。エドワード・ヤンは自身の監督2作目の主演に、最大のライバルであり、盟友だったホウ・シャオシェンを指名する。最後まで職業俳優の起用を嫌ったエドワード・ヤンの手付きは素人を主演に据えながら、精緻な建築の様な正確な理詰めで男と女の違いに色を塗る。残酷なまでに男女の違いが露わになるクライマックスに不意に涙腺が緩む。
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