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サーミの血のtakanoひねもすのたりのレビュー・感想・評価

サーミの血(2016年製作の映画)
3.3
同化政策……について、自分は不勉強なため歴史や政府の目的などの視点を持ち得ません。
いくつかは(アメリカのエスキモー、インディアン、日本の大和民族同化政策、中国のチベット、モンゴル)知っているけれど、同化政策は大雑把に分けるとふたつパターンがあり
①異民族に対して行う
②宗教などの集団に対して行う
今作品は①の方。

観た限りでは……ノルウェー(1930年代)ではサーミ人(トナカイ遊牧民)は他の人種より劣った人種とされ差別されており、サーミ人はノルウェー語を強制的に学びサーミ語を禁止されるが、進学などの選択は出来ず、社会に出て学び働き恋愛することすら阻まれていたということらしく。

米の文化人類学者ルース・ベネディクトが1940年に出版した本の中でレイシズム(人権主義→人種間には優劣の差異があり、優等人種が劣等人種を支配するのは当然であるという思想、イデオロギー)を解説していますが、映画の中にあるサーミ人に対して行われる教育、教師の発言などは、まさにこれに当てはるような。
(身体測定は各民族・人類の身体的差異等の研究、知能の定量化の分析ですね……この手法と測定の結果は後に根拠無しで否定)

自分の生まれを嫌悪し、そこから自由になろうとしたエレ。
サーミ人として人生を全うしたエレの妹。

残念なのは、エレが自らの手で獲得していったその後の人生と、エレの妹が同化教育を終えた後の人生が分かる場面がなく、本当の意味で差別に抗う側の『経過』が描かれなかったこと。

エレはノルウェー人になりすましニクラスに恋をして彼を頼っていくも差別に合うという、格差恋愛に尺があるのでサーミ人側の視点が狭く、エレ視点なので、感情移入しずらかったところが。
寧ろ妹や母、祖父の語りを知りたかったとも思います、でもそれは無理な話か……。

現在?でも、ノルウェー人がサーミ人(ラップランド人)へ薄っすら偏見が残っていることは老いたエレと周囲にいた婦人達の会話から分かる……。

エレの人生の門出以降、彼女がどういう道を歩んできたかは分からない。
結婚し息子と孫に恵まれていることから、少なくとも望んだものは得られたのかな……。
逝った妹の静かな強さが対比するラストでした。

追記。まさか、このタイミングで中国の香港への同化政策(言語政策)のニュースが出るとは思わなかった……変わりゆく香港……。