TaroAshida

THE BATMAN-ザ・バットマンーのTaroAshidaのレビュー・感想・評価

3.4
世界的人気シリーズの世界観を根底から覆して大ヒットさせたクリストファー・ノーランから引き継ぐというクリエイターとしては絶対に避けたい案件を引き受けたという事実だけで賛辞に値するマット・リーヴス監督。
だって弊社のカリスマ加地さんが引退して「アメトークとロンハーとテレビ千鳥は明日から芦田がやってくれ」と言われたら私はやらない。てかやれない。

だがしかし、この映画を見終わった後に真っ先に感じてしまったのは「ダークナイトと比べるとなあ…」という、このシリーズをおそらく永遠に絡みつく"ダークナイト以後のトラウマ"。ダークナイトを生み出したノーランですら、その後遺症に悩まされていたように見える。(結局ダークナイトの衝撃をダークナイトライジングは超えなかったように個人的には思える)

だから私はまずマット・リーヴス監督がどんなアプローチで"ダークナイト以後"の高すぎる壁にアプローチするのか?ここが楽しみで仕方なかった。

そして彼がとった差別化の最大のアプローチが"探偵物語"だったわけだ。
これは僭越ながら感想を述べさせて頂くと、素晴らしいアプローチだと思った。
さすが猿の惑星を見事リバイバル&リニューアルさせた男。

序盤は刑事サスペンスの傑作「セブン」や「ゾディアック」のごとく猟奇的な殺人犯の挑発的な殺人をバッドマンが警察と共に謎解きしていく。ノーラン版にも増してダークな世界観、これ以上のダークヒーロー的役俳優はいないとも言えるロバート・パティンソンの美しさの中に潜む悲しげな表情も相まって良いスタートを切る。

だが個人的にはここからがあまり乗り切れなかった。「セブン」かのような圧倒的恐怖と狂気に牛歩の如くジワジワジワと近づく、本格重厚ミステリーバッドマンで行き切って欲しかった。どうも探偵としてのバッドマンは心もとないのだ。相棒刑事に頼り気味だし、謎解きのセンスは抜群だが、冷静に見るとコナン的な切れ味溢れる推理力はあまり発揮してない。役者の存在感で忘れることは可能だが、なんなら暴力で制してる感じが否めない。

もちろんアクションシーンや爆破シーンのクオリティは素晴らしい。見応えもある。
だけど結局あのポールダノ演じる犯人の真の目的や動機は何だったのか?ダークナイトのジョーカーのように我々鑑賞者すら「ジョーカーの言うこと一理あるぞ…正義とは?」と思わせる、911以降の混沌とした世界を反映して、アメコミを超えた映画としての鋭い提示がそこにはあった。

だが今回のバッドマンは、大爆発的テロを処理して人々を救いましたという大味なヒロイズムで終わるの?と個人的には拍子抜けしてしまった。

が、こんな批評は猿の惑星を乗り切ったマット・リーヴスが予見していないわけがない。彼が背負っているものは世界的大ヒットシリーズだ。つまり世界的に大ヒットさせながらも大衆を劇場に向かわせる作品を作る必要がある。そのためには人々を興奮させるド派手なアクションや目に見えた勧善懲悪要素は必須だ。そんな彼のバランス力みたいなものが、この探偵物語+アメコミド派手アクション勧善懲悪の融合という形を生み、ヒット映画としてはタブーとも言える176分という編集上がりになったのかなあとか色々監督の悲哀を想像してしまった。もちろん決してつまらないとかでは無い。ただ、こちら鑑賞者側の膀胱との戦いは制することができないくらい長いことは確か。
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