ガンビー教授

ゲット・アウトのガンビー教授のレビュー・感想・評価

ゲット・アウト(2017年製作の映画)
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現代アメリカ映画の潮流のなかで、とりわけスリラーやホラー、サスペンスと言ったジャンルは、批評家に賞賛されるような真にユニークな個性を持った現代的作品が増え、若手映画監督にとっての登竜門的な扱われ方さえされるようになってきたと思う。かつては偏見の目にさらされていたジャンルの地位そのものが向上したこともあるし、こういったジャンルは実は下手な人にはとうてい撮れない微妙な匙加減というものを要求する。僕はこの手のジャンルが好きで、というか、個性のある恐怖を描く作品はおしなべて好きなのでいっぱい作られてほしい。で、ゲットアウトもそういう流れに位置づけられる作品の一つで公開前からずっと興味を持っていたが機会を逸し、それでも何とか上映終了前日に間に合って見ることができた。

で、ニュアンスの描写がうまい。他人に言葉で伝えようとしてもいったい何を言っているのか伝わらないような主観的な不安、その表出としての、一つ一つはささいな「引っ掛かり」「違和感」……その積み重ねが効いている。

そこから醸成されていく不安が臨界点に達するとき、現実が転倒し、気付けば異様な世界に引きずり込まれている。

スリラー、ホラー、サスペンスといったジャンルは常識的な水平感覚を転倒させ、「被害妄想」を現実にしてしまう。パラノイア的な被害妄想こそが実は正しい世界の姿であり、隠された現実が糊塗されたまやかしを食い破って襲い掛かってくるという構造のスリラーやホラーは多い、というか、こういったジャンルはそもそも気質としてそういう要素を持っているとまで言ってもいいかもしれない。

ただ、この作品が個性的なのは、その一つ一つの「違和感」の描写から、実際に現代アメリカ社会で暮らしている黒人男性の一人として、監督ジョーダン・ピールが実生活のなかで感じてきたであろう感覚がにじみでてくるところにある。もちろん誇張してあるのだろうが、どこかしら実体験から引っ張ってきているのだろうなと思わせるリアルな「いたたまれなさ」や「引っかかり」、ないしは「不快感」を追体験させ、そのパラノイア的な不安が増幅して異常な領域にまで突入してしまうというのがこのゲットアウトという作品の本質なのだろう。

入り口を丁寧に物語っているからこそ完全なフィクションへ突入していく後半が効くし、オチの皮肉が際立つ。幕切れの場面でも皮肉が効いていて、これはもちろん現代アメリカ社会に厳然として存在している状況を踏まえているのであろうことが明確に伝わってくる。冒頭、実家に向かうドライブの途中で描かれる前振りが丁寧。
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