TAK44マグナム

亜人のTAK44マグナムのレビュー・感想・評価

亜人(2017年製作の映画)
4.5
不死身すぎる方々が、何かっていうと自殺して蘇ります!


人気コミックを原作としたSFアクション。
主演は佐藤健、敵役に綾野剛という「るろうに剣心」でも戦った経験のある2人が、死んでも死んでも「ええ加減にせえや!」とツッコみたくなるぐらい戦い続けます。
何故なら、彼らは「亜人」だからです。

「亜人」とは、死んでもすぐに再生して蘇ることのできる新人類のことでして、例えば手足を失って困ったら自殺すれば完全な状態で復活することが出来るというわけ。
基本的に寿命以外では「僕は死にましぇ〜ん」なのです。
なんとまあ便利!

そんななので、日本政府は希少な亜人を保護という名目で捕らえては、新薬の実験やら毒ガス製造のためやらに使ったり、人体実験をくりかえしているのでした。なんちゅう非道!
亜人には人権を認めてないのです。

佐藤健演じる永井は、研修医として働く普通の青年だったのですが、交通事故で死んだときに亜人だと判明、厚生労働省に監禁されてしまいます。
何度も何度も殺される人体実験をされて嫌になっているところに、綾野剛演じる佐藤という男が実験施設を強襲、佐藤は永井を助けにきたと告げます。
しかし、平気で人を殺しまくる佐藤(本当にメチャ殺しますよ。直接対峙した登場人物で殺されなかった人間は今野浩喜ぐらいじゃないの?)を信用できなかった永井は一人で逃亡するのでした。

永井はどこかの田舎(東京から徒歩で逃げたのに、ここ何処?っていうぐらい超ド田舎なんですけど・・・)で見知らぬお婆さんに助けられ、一方の佐藤は厚生労働省を壊滅させ、SAT部隊を全滅させ、さらには東京でVXガスを使って都民を抹殺すると宣言するなどやりたい放題。
ついに政府は自衛隊特殊作戦群をベースとした対亜人特殊作戦群を組織、全面対決の様相を呈します。
しかし、永井は佐藤を止める決意をして、厚生労働省の戸崎に、ある取引を持ちかけます。
はたして、永井は佐藤を倒すことが出来るのでしょうか・・・?


まず、これは原作がエライんですけれど、亜人の戦い方がユニークですよね。
負傷したら自殺して瞬時に生き返り反撃する。
痛みは感じても、死そのものが怖くないので自分自身を捨てごまにすることが出来るわけです。
これなら何だって可能じゃないですか。
自爆テロを一人で永遠に繰り返すことも出来ちゃう。
捕縛する対処方法は色々と考えられるし、劇中でも麻酔銃などで実践されますが(眠らせるしかないなんて範馬勇次郎みたい)、やはり不死身というのは最高のアドバンテージに違いありませんよ。
死ぬ事を前提とした戦法や潜入方法は、他では中々みられないので斬新でした。
また、亜人はIBMと称される「黒い幽霊」を発現させ、使役することも出来ます。
本作は邦画としてはCGもそんなに安っぽくないので(厚生労働省壊滅シーンもかなり出来が良かったです。ただ、あれマジでやっていいの(汗)??)、このIBMとコンビを組んだ戦い方も見栄えが良く、「ジョジョの奇妙な冒険」のスタンドにも似ているので実写版ジョジョとどうしても比べてしまいますね。
これだけ邦画でも巧くCGキャラを動かせるのなら、大コケしてしまった実写版ジョジョでも同じようにスタンドをもっと格好良く再現できるはず。是非、本作を見習って続編製作をお願いしたい。

本作はアクション重視の邦画として、かなり面白い出来栄えになったかと思います。
生命線であるアクションは、俳優陣がちゃんと動けているし、邦画でもこれだけのアクションコーディネートが出来るようになったんだな、と感慨深くなるほど。
ほぼガンファイトが中心となっていますが、とにかく安っぽく見えない。ここが大事。
(ちょい役で大森一樹が出演していますけれど、「ゴジラVSビオランテ」の冒頭銃撃戦と比較すると隔世の感がありますな)
特に佐藤対SATの場面は、炸裂する佐藤無双が強烈なインパクトを残す屈指の名場面でしょう。
佐藤の仲間である田中が掩護しながら「あんた、人間じゃないよ」と思わず呟きますが、超人的な強さを印象づけるのにこれ以上ないぐらい成功していると思います。

良い面もあれば悪い面もあるのが世の常で、もちろん難点も色々とあります。
長い原作を一本の映画として落としこむ際に、当然たくさんの要素をふるいにかけますよね。
その際にどうしても薄っぺらくなってしまう部分が出てきます。
アクション映画としての完成度を高めた反面、ドラマとしては紙っペら一枚なみの薄さなので、そこはもう少し何とかならなかったのかとは思いました。

そして、登場人物の扱いが雑なんですよね。
千葉雄大や吉行和子は、あれではただ出てきただけ。
主人公の妹も最後の方は姿も見せないままでした。
ただ、これは前編みたいなので、後編でもっとキャラの掘り下げが行われる可能性は高いと思います。
ひたすら極悪非道な日本政府や経済界のお偉いさんは、マジでヒドイので笑えましたが(苦笑)、違った意味でヤバいのがYoutuberのヒカキン。
何年後かに鑑賞すると、痛い起用になってしまいそうな予感がしますね。
品川祐は、本人もちゃんと出てくるのか観るまで不安だったそうですけれど、別に出てこなくてもどうでも良い役でしたな(苦笑)

他にも疑問符がつく箇所はあっても、テンポの維持のためにも深く考えないで観るのがベストでしょう。
例えば、永井が最初に佐藤を撃つのも理解できない行為に見えますが、なんだか信用できないヤツだから思わず撃っちゃっただけだと思えばOKなんじゃないでしょうか?
あの時点では素人でしかない永井なので、撃つ気がないのについついトリガーを引いちゃってた・・・というのも頷ける話。
そんな風に納得しつつ観れば、あとは格好いいアクションと演じるイケメン俳優たち(城田優も背が高くて存在感アピール!)に熱く胸キュンしていれば良いかと。
「マトリックス」みたいなラストカットまで萌える、いや燃える
バトルに心躍らせましょうよ。
確かに訓練もしていない研修医が、簡単に銃撃ったり出来るのか怪しいものですけどね(汗)


最後に、本作最大の功労者について。
それは誰かというと、綾野剛その人。
マッチョなヌードまで晒しただけあって、完全に綾野剛の映画になっちゃっているじゃないですか。
佐藤健も頑張ってはいますが若干、食われてますね。
この綾野剛演じる佐藤というキャラクターだけは、特に作り手の愛がすごく感じられました。
殺人マシーンになってしまった経緯も充分に理解できるし、行動原理が「人間を殺したいから」というジェイソン並の分かりやすさなのが良いなあ。
芝居がかった口調や、常にニヤニヤしていても実は能面のように凍っている表情で、深い闇を抱える佐藤をこれだけ巧く演じているとは綾野剛もやりますね。
加えて、自分でアクションが出来るのもポイントでしょう。
まさに適役。
やはり、こういった映画は「コマンドー」や「ダイ・ハード」そして「HK変態仮面」然り、悪役が映えるとそれだけで良作臭がプンプンしてきますよ。
敵に魅力があるからこそ、主人公が輝いて見えるのです。

余計な説明を極力省いて勢い重視なところ、心情や状況を全部セリフで語ってしまう邦画シナリオのダメポイントがほぼ無い、主人公側も敵側もみんな格好いい(川栄李奈の髪型は似合ってないが)、予算に限界のある邦画としてはアクションやCGを頑張っている、3,2,1・・・と親切にもアクション開始をカウントダウンしてくれる音楽がしびれる、お偉いさん方は揃ってバカばかりでナチスみたいに非道なところが思わず平松伸二の漫画かと勘違いしちゃいます・・・と、これだけ揃っていれば多少の粗も許せるというもの。
原作に愛着のあるファンの方には「ここは違うだろう」と気になったり、駄目だなあと落胆する部分も多々あるかと思いますけれど、個人的にサラリと読んだ程度しか原作を知らないのでフィルターをかけずに楽しめました。

人がバンバン死ぬし、腕が飛んだり、それこそコマ切れになったりしますがスプラッター要素はゼロ。
まったくエグさは感じないスタイリッシュなアクション映画なので万人にオススメできる良作かと思います。
「またコミックの実写化かよ。どうせショボいんだろう」と、確かに鬼門ではありますが避けて通るのは勿体無い逸品。
是非、スーパーマリオで暇をつぶしては人殺しに精を出す綾野剛のトチ狂いぶりをお楽しみください。


追記です。
原作コミックをとりあえず10巻まで読みました。
これは原作もおさえて、色々と本作で足りない部分を補完したほうがより良いのかもしれませんね。
かなり異色な原作も面白いし、当然、キャラクター性や世界観のディティールが細かく描写されていて興味深い内容です。
特に主人公の永井圭は原作を読まないことには理解できないキャラクターだと思いました。
ただ、映画化にあたって、予算やできる事の範囲を考慮した場合、取捨選択は間違っていない印象を受けましたので、本作は本作で、やはり邦画アクションとして完成度が高いと思います。


劇場(シネプレックス平塚)にて