我々がふだん当たり前のこととして受け入れている社会通念上のルールを揺るがす存在が現れ、秩序を次第に解体し、最後には世界が滅亡する。このどこか冗談めいた物語は、黒沢清監督のフィルモグラフィのなかで時に回路やCUREといったホラーの形を取って姿を現したが、今作ではどこかコミカルでオフビートな会話のかけあいを見せてポップなコメディの形を取っている。
松田龍平がいい。黒沢組初参加と思えないほどきれいにはまっている。あれほど登場した瞬間から宇宙人に見える役者は他にいないように思う。映画が始まっていきなり宇宙人に乗っ取られているのだが、もはや普通の人間として暮らしていた頃の姿を思い描くのが難しいほど、元からこのような存在であったとしか考えられない。
それにしても、演劇原作と言うこともあってか、「こんな内面状態をどう肉体を駆使して外顕化すればいいのか」と困り果ててしまいそうなシチュエーションに富んでいる。それを見事にこなしていく役者とか、ここぞというところで炸裂するザ・黒沢清演出だけで楽しめる。
長谷川博己はやけに楽しそうだった。サングラスをかけるのも本人のアイデアらしい。
長澤まさみはベストオブ長澤まさみに認定します。
一瞬しか登場しないが、東出昌大の顔。なんであんな顔してるの。何もしてないのに爆笑できる。
黒沢監督は以前(岸辺の旅のときかな?)、謙遜もあってかベッドシーンが苦手とおっしゃっていたと思うのだけど、それが絞首に置き換わるとは。殺人なら描けるということなのだろうか。とにかくキュートな場面だった。