tak

夜は短し歩けよ乙女のtakのレビュー・感想・評価

夜は短し歩けよ乙女(2017年製作の映画)
3.7
楽しい飲み会にお開きの時間が迫ると、「あーもう、この楽しい時間がずっーっと続けばいいのになぁ」と思ったことはないだろうか。この「夜は短し歩けよ乙女」は、お酒の嗜みと楽しさを知った大学生"黒髪の乙女"ちゃんと彼女に恋する先輩を軸に、一夜の酒宴から深夜の古書市、学園祭、謎の風邪蔓延と春夏秋冬のエピソードが続く。大学時代という楽しき日々と、覚めないでほしい夢心地に浸る上映時間は、愉楽のモラトリアム。

森見登美彦の原作は読んだ。とにかくアルコールを摂取し続けるどんちゃん騒ぎが延々と綴られる前半に、だんだんと僕のイマジネーションも酩酊状態になっていき、どんな場面を想像したらよいのか混乱しながらページを読み進めた。しかしこの映画化で示された世界は、中村祐介のイラストから自由に広がっていくイメージがとても魅力的なのだ。酒場のカウンターの背後にズラっと並ぶ真っ赤なダルマ。それはアニメセルというフィルターを外すとダルマやらタヌキと呼ばれたサントリーオールドが並んでいる様子なんだろうし、10代の頃から大好きだった(コホン)赤玉ポートワインの黄色と白のラベルが並ぶ素敵な風景もなーんか嬉しい。

欲しかったものと出会えるかもしれない古書市にしても、学園祭実行委員との追いかけっこにしても、美少女が風邪の見舞いに来てくれることにしても、とにかく"ずっとこの楽しい時間が続けばいいのに"と思えるエピソードたち。理屈を追っていけばなんだかわからない話。だけどこの自由な映像と、粋な台詞の数々、ラストを飾るアジカンの主題歌までをあるがままに受け止めて楽しめたら、この上映時間はあなたにとって、世知辛い現実社会に戻るまでの素敵なモラトリアムとなるに違いない。
tak

tak