TAK44マグナム

いぬやしきのTAK44マグナムのレビュー・感想・評価

いぬやしき(2018年製作の映画)
4.7
ジジイだけどヒーロー!


奥浩哉によるSFアクションコミックを「アイアムアヒーロー」などの佐藤信介監督で実写化。
主演は木梨憲武、佐藤健。

「大いなる力には大いなる責任が伴う」とは、「スパイダーマン」のベン叔父さんが遺したヒーロー界随一の有名な格言ですが、その言葉がよく似合うヒーロー誕生譚であります。
本作における「大いなる力」とは、未知のテクノロジーが満載された機械の身体であるわけですが、別に超技術や超能力ばかりが力ではありません。
例えば、当たり前ですけれど権力にも責任がともないますし、スポーツであるボクシングでも、ボクサーの拳は凶器と見なされるので喧嘩はご法度。
つまり、暴「力」にも大いなる責任がともなうのです。
その責任を背負えるか否かで、正義か、それとも悪なのかが分かれてゆくような気がします。


犬屋敷壱郎は、58歳にしては老けた風体のしがないサラリーマン。
家族はいても、一軒家を購入しようが何だろうが気にもとめて貰えません。

一方、犬屋敷の娘と同じクラスの高校生である獅子神皓は、本来は心根が優しく友達思いの少年であったのが、両親の離婚によって他人に心を開かなくなっていました。

そんな2人が偶然、夜の公園で出会いますが、お互いを認識する間も無く、謎の光と衝撃波に吹き飛ばされてしまいます。
混濁する意識の中で、犬屋敷は朧げながら「何か人のようなもの」を目撃しますが・・・

目覚めてみると機械の身体となっていた2人の男が、新宿上空で生死をかけた闘いをえんじるまでを描く「ジジイがヒーローで、俺が悪役」な映画、それが「いぬやしき」です。
細かい説明は全部省かれてますので、何がどうして人間じゃなくなったのか分からないのですが、大体の想像はつきますし、特に不親切だとは思いませんでした。
こういった原作からの改変部分はかなりありますけれど(渡辺しおんや安堂直行あたり)、一本の映画にまとめる場合の取捨選択は概ねうまくいっている印象を受けました。
説明的になってしまう部分は出来るだけ簡潔に語り、情報を必要最低限にとどめているのが巧く機能している為にテンポが崩れることなく、お話の進み具合も滑らか。

正義と悪のダブル主人公なので、2人の描写にかける配分も同等であり、犬屋敷が人助けに目覚めるのに対し獅子神が大量虐殺を始めるに至るドラマは、適度な尺を使って充分に描けているのではないでしょうか。

自分が「生きた存在」であると、病気や怪我で苦しむ人々を完治してまわる事で実感する犬屋敷。
しかし、獅子神は勝手な都合で家を出て行った父親を許せない反面、手にかけることがどうしても出来ず、そのやり場のない狂気を無関係な「幸せそうな家族」に向けてしまうのです。
結果的に、それが彼をがんじがらめにして追い詰め、自業自得とは言え、更なる悲劇を生んでしまいます。

原作からかなり端折ってはいますが、ここから犬屋敷と獅子神の激突までスムーズに進行しますし、総じてコミックの実写化としてはかなりの成功例じゃないかと嬉しく思います。
情けないが人間として正しい犬屋敷を演じる木梨、冷酷な殺人マシンと化してしまう獅子神を演じる佐藤健のどちらも、それぞれのキャラクターを巧く咀嚼して体現。
脇を固める面々も、壱郎の妻役である濱田マリを筆頭に、かなり真面目に役に挑んでいるのが分かります。
唯一、獅子神を追う刑事役は伊勢谷友介のようなスター俳優でない方が違和感なく、リアリティが出て良かったような気がします。
警察は、後半になると空気なので、伊勢谷友介を使うのは勿体ない。
(警察関係で付け加えると、下手な会議場面とか無くて良かったし、SATが強襲するところは不気味で雰囲気がよろしい。反面、いきなり銃を被疑者に対して乱射するのは日本では現実的ではないような?)

新宿でのクライマックスを盛り上げるCGも、ハリウッド級の仕上がりと言っても過言ではなく、かなりの高水準で驚きました。
邦画もここまで来たかと感無量。
一部、ビルの爆発などはまだCG感が拭いきれておりませんが、予算を考えれば素晴らしい仕事を成し遂げていると思います。
CGがショボければ、いくらドラマパートを頑張っても腰砕けで終わってしまいますからね。
あくまでもSFアクション映画なので、そこは重要です。
ヘリのシーンなんて本当によく出来ていて、壁面への激突などはハリウッド大作(例えば「ターミネーター/新起動」とか)より違和感が少なくナイスな出来栄え。
ターミネーターと言えば、こちらも機械なので、終盤の格闘アクションになるとターミネーターぽく?重みを重視した動きになるなど、工夫もちゃんと見てとれましたよ。

ここ最近の邦画の潮流としてコミックの実写化が目立ちますが、一頃とくらべて「たかがマンガ」と言ったような、たかを括った作り手の顔が見える失敗作が減ってきたのではないでしょうか。
本気で取り組んだ作品が増えてきような(それでも題材によっては最初から無理があるものも多いですけれど)、そんな感じがします。
その中でも、本作はトップレベルと言っても差し支えない完成度だと推したいです。
もちろん、原作のファンからすれば多々問題はあるでしょうし、文句をつけたいのも分かりますが、ひとつのSFアクション邦画としてみたら単純に面白いし、考えさせられるテーマも内包されていて娯楽映画として高レベルをキープしていると思いました。
特に、ふだん頑張りたいのに気力のない日常をおくっている日本のお父さん方に是非観ていただきたいですね。
きっと気合が入りますよ。


優れた原作ありきなのは前提としてありますが、「大いなる力」を得ても何に使うのか、そんな危うさを伝えているところが一番気に入ったところです。
奥浩哉作品特有のヴァイオレンス描写のさじ加減も巧い。
また、過剰に演出しないラストが格好いいじゃないですか。
思わず、「ヒーローはここにいるぞ」と呟かずにはいられません。


それにしても、いつMCU入りしてもおかしくない能力だし、トニー・スタークは犬屋敷壱郎こそスカウトするべきだと強く主張しておきましょう!
いや、本気でそう思いました。

かなり、オススメです!