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犬ヶ島のnetfilmsのレビュー・感想・評価

犬ヶ島(2018年製作の映画)
4.0
 地面から湧き上がるような男性コーラスの重低音、小林一族の1000年にも及ぶ犬への怨念、今から20年後の近未来の日本。ウニ県メガ崎市では狂犬病ならぬドッグ病が蔓延り、人への感染が恐れられていた。小林市長(声=野村訓一)は全ての犬をゴミ島とされる「犬ヶ島」に隔離すると宣言する。市長は反対派の意見を踏み潰すために、補佐のメイジャー・ドウモ(声=高山明)に市長宅の護衛犬であるスポッツ(声=リーブ・シュレイバー)を島に強制連行する。それから数ヶ月、飼い犬も野良犬も放り込まれた「犬ヶ島」では、怒りと悲しみと空腹と伝染病が蔓延していた。少ない食料を奪い合うためには、それぞれがチームとなって動かなければ未来はない。かくして元野良犬のチーフ(声=ブライアン・クランストン)、頼れるリーダー犬レックス(声=エドワード・ノートン)、元野球チームのマスコット犬ボス(声=ビル・マーレイ)、ゴシップ大好き犬デューク(声=ジェフ・ゴールドプラム)、元CM22本のアイドル犬キング(ボブ・バラバン)は5人組として徒党を組むようになった。ある日、彼らが食料を漁るそばに小型飛行機が不時着し、中から1人の少年が出て来る。彼は小林アタリ(コーユー・ランキン)というスポッツの飼い主であり、小林市長の養子だった。

 『ライフ・アクアティック』でヘンリー・セリックのコマ撮りアニメを用い、『ファンタスティック Mr.FOX』でストップ・モーション・アニメに挑んだウェス・アンダーソンの飽くなき探究心は留まる事を知らない。両親を新幹線の不慮の事故で亡くし、孤児となった小林アタリ少年は、国民のイメージ・アップを狙う小林市長によって引き取られた。だが近未来で唯一、心許せる親友であるスポッツを奪われたアタリ少年の親友探しの旅が始まる。路頭に迷う5匹の犬と1人の少年の旅は、黒澤明の『七人の侍』を真っ先に想起させる。元野良犬で一匹狼だったチーフの姿はさながら菊千代と被り、彼らが勇ましく歩む場面では『七人の侍』の「侍のテーマ」が流れる。ウェスの黒澤愛を更に印象づけるのは、運命の女ナツメグ(声=スカーレット・ヨハンソン)と出会う場面に流れる『酔いどれ天使』の「小雨の丘」だろう。日本語と英語が自由自在に入り混じる世界、大相撲の取り組みと葛飾北斎や歌川広重の浮世絵へのオマージュ、ウールで出来た犬の毛でモコモコ感溢れる喧嘩場面の躍動、キャンディ・カラーと呼ばれるウェスお得意のカラーリングと断面図のようなジオラマ世界と真骨頂な横移動。それぞれが精緻に考え抜かれ、適切な箇所に置かれ、初めてウェス・アンダーソンの世界観としてこの世に生を授かる。その膨大で緻密な仕事ぶりと細部にまで及ぶ独特の世界観にはただただ頭が下がる。
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