あしたか

三度目の殺人のあしたかのネタバレレビュー・内容・結末

三度目の殺人(2017年製作の映画)
4.3

このレビューはネタバレを含みます

※※※※※映画を見ていない方は絶対に読まないでください※※※※※










初めに
レビューというか考察です。
この映画は観客が「こうだったら満足できる/スッキリする」という目的のもと(言ってしまえば自分に都合のいい) 答えを探すタイプの作品だと思います。従って以下の文章もまた、私個人の「スッキリする」希望的解釈でしかないわけです。



■『タイトルの意味は?』
一度目の殺人→30年前に三隅が北海道で起こした殺人事件
二度目の殺人→映画の中で焦点になっている、三隅が咲江父を殺した殺人事件
三度目の殺人→三隅は自分を「生まれて来なければよかった人間」と思っている。過去の二度の殺人もそういった人間を「裁いた」ものである。よって三度目は「自分で自分を殺した(裁いた)」と言える

■『真犯人は誰なのか?』
三隅と咲江の共謀。2人が山中父を河原まで誘き出し、三隅が(もしくは2人で協力して)殴り殺した。
殺した後で、罪を重くするための工作として(または裁きの「十字架」の跡を刻むために)死体を燃やす。火を付けた後でより罪を重くする為に強盗殺人の形をとろうと思い財布を奪う。その際に手を火傷する。
罪を重くしようとしたのは、死刑になるためである。前述の通り、三隅は自分を生まれてくるべきでなかった存在だと認識している。己を裁く(国に裁かせる)ために、死刑をより確実にするために罪を重くする工作をした。
重盛が「咲江父はアンタなんかにのこのこ付いて行って河原まで行かないでしょう」と言っていたことからもわかる通り、三隅と咲江父は二人きりではなかった。咲江の左足の靴が泥で汚れていたことから、彼女が川原に赴いたのは確実である。
※咲江は体の不自由な女子であることから、彼女が1人で父を呼んで、自分よりも強い父を独力で殺したというのは物理的に考えにくい。

■『死刑になりたがっていたのにも関わらず、減軽を望んでいたのは何故か?』
言い分をコロコロ変えることで弁護士を困らせたり、また罪逃れに終止していると裁判官・陪審員に思わせ反省の色が無いと判断させることで、裁判を自分に不利に進め、死刑をより確実にしようと考えたが故の作戦

■『動機は?』
①咲江が三隅に依頼
②三隅が咲江が父へ抱く殺意を忖度して殺害
③三隅が独自に「死ぬべき(生まれてくるべきでなかった)人間」と判断して殺害(裁いた)
④そもそも映画の中で描かれないため不明
※②③の場合、共謀とは言えない可能性がある。咲江は単に三隅から「山中父を河原まで呼び出してくれ」と頼まれただけの可能性があるからだ

■『夢のシーンの意味は?』
❶三隅と咲江が2人で雪合戦をしているのは2人の親密さを表している。この時に咲江の左足が完治しているのは「自分がこの人の娘だったらよかったのに」という願望の現れ(※詳しくは後述)。
離れて見ていた重盛が雪玉を当てられて雪合戦に混ざるのは、三隅と咲江の2人によって「重盛が事件の真相に興味を持ち、巻き込まれた」ことを暗喩する。
3人が雪の上に寝そべる際に、三隅と咲江の2人が手足を綺麗に揃えて十字架の形になっているのに対し、重盛は足を開いている。これは前者2人が裁く側(理不尽に命を選別する側)の人間=殺人者であるのに対し、重盛がそうでない人間(ただ選別を甘んじて受け入れるだけの人間)=非殺人者であることの暗喩。足跡で2人と重盛が区切られているのも同様。
直前のシーンでの重盛の父親の「殺す奴と殺されない奴の間には深い溝がある。」という発言がこれに繋がる。
❷重盛が「殺人者」側に引き寄せられていると見ることもできる。というのも、(詳しくは後述しているが)国民もまた死刑を通じて人を殺す殺人者だからである。映画ラストでは重盛自身もそれを自覚することで「殺人者」側にスイッチしてしまったし、罪の意識も感じていた。
そうするとこの夢のシーンは「三隅も咲江も重盛も皆同じ殺人者である」あるいは「重盛も彼らと同じ殺人者への道を歩み始めた(自覚を覚え始めた)」ことを暗喩していると考えられる。
この解釈は映画ポスターの重盛が雪景色の中で血を浴びている絵にもマッチする。更に、重盛が「命は理不尽に選別されている」という共通の価値観を持つ三隅に引き寄せられていくストーリーとも一致する

■『三隅と咲江の関係は?』
三隅は咲江の不具の左足に、同じように足が不自由だった自分の娘を見た。ゆえに娘のように大事に思ったと考えることができる。
咲江は自分が父にレイプされていたことを唯一話せる相手が三隅だった。また、三隅アパート管理人が咲江を「明るい女の子」と評していたことから、咲江は三隅にかなり心を開いていたことが伺える

■『咲江が足について「昔工場の屋根から飛び降りた時に怪我をした」と嘘をついているのは何故か?』
咲江の父は仕事では不正を行い、家庭では自分をレイプする。最低の人間で死ねばいい(殺したい)と思っている。それらの事実を知りながら見て見ぬふりをする母親もまた許せない存在である。
咲江はそういった親達の「汚いお金」によって育てられてきた自分のことをも嫌悪している。自分の不具の左足が、その2人の悪人の遺伝子を受け継いだ「悪の象徴」であると負い目を感じていた。そのため、己を辱めるその足について周囲には「屋根から飛び降りた時に怪我をした(=後天的なものである)」と言うことで、「自分は悪の遺伝子など継いでいない。真っ当な人間である」と思い込んで己を慰めていた。

■『重盛の家族の描写の意味は?』
娘の「嘘泣き」はまず一つ、やはり実際に「娘は普段から悲しい(寂しい)思いをしている為に泣きやすい精神状態にある(あるいは泣くことに慣れた)」ことを示す。
次に、その後映画の中で続く三隅の供述を観客が「嘘なのか?本当なのか?」と疑えるようにするための「前フリ」である。先に娘の嘘泣きを配置することで、「人間は悲しくないのに涙を流せるし、例え嘘でも本心であるかのように迫真の演技で語ることもできる」ということを想起させている。
娘が重盛に「私が困ったら知らないふりしないで助けに来てくれる?」という電話をするシーンには
①娘は父親がいなくて寂しい/構ってほしいと思っている
②直前のシーンで咲江父が咲江をレイプしていることを黙認している咲江母と、重盛との対比。重盛は娘を見捨てない
③重盛が「見て見ぬふりをしない」ことを誓うことで同時に「真実と向き合う」「真実を追い求める」覚悟を決めた
ことをそれぞれ意味する。
これ以降で重盛は最初の「真実などどうでもいい」という立場から一転、三隅から真実を引き出そうとする。三隅もまた重盛が真実に興味を持ち始めたことに気付いた(重盛の左足の靴に付着した泥を見て、重盛が咲江の真似をして足を引き摺りながら河原を歩いたことを悟った)ので、真実から目を背かせるために/あるいはそれ以外の何らかの理由で「本当のこと」を重盛に話した。

■『咲江が北海道大学に行きたい理由は?』
三隅とその娘が北海道育ちで、また咲江は三隅を父のように慕っていたことから、咲江は三隅の娘のような存在になりたかった(自分と三隅を関連付けたかった)・三隅とその娘が生まれ育った北海道に憧れを抱いたためである。
もう一つは単純に母親から遠く離れた場所に行きたかったこともあると考えられる。

■『カナリアの話は何を意味している?』
三隅ははカナリアを4匹殺し、1話だけ敢えて逃がした。これは重盛や三隅が言っていた「命は理不尽に選別される」の実行である。4匹を意味もなく殺し、1匹は意味もなく殺すことで、三隅は命を理不尽に選別したのである。
三隅は裁判官が「人の命を自由にできる」立場であることに憧れを抱いていた。人を裁く=命を選別する ことだと思っていた。ゆえに自分が選別した(殺した)カナリアや咲江父には十字架を刻んだことで裁きとした。
なお三隅が重盛たちに対して「重盛さん達はそうやって解決してるじゃないですか」と言い重盛が「それは死刑のことを言ってるんですか?」と返す会話があるが、これは上述の内容に繋がる。三隅にとって死刑とは、国(弁護士/裁判官/陪審員/司法制度全体/国民とも取れる)が人を裁いた(命を選別した)結果ということである。自分がやっていることも何ら変わらないと思っているのかもしれない。
「人間に人の命を裁く権利など無い/死刑を認めることは人が人を殺すことを許容するのと同じである/死刑もまた殺人である/そもそも裁判には(劇中で描かれるような)様々な制限や制約があり、そのような環境下で人の命を裁くという行為自体に無理があり公平ではない」という監督の意見もあるのかもしれない

■『裁判所を出た重盛が自分の頬を拭ったのは何故か?』
あの頬を拭う行為は、殺人現場において三隅と咲江が頬についた血を拭うためにしたのと全く同じである。裁判で三隅を死刑から救えなかったことで、重盛はまるで自分が三隅を「殺した」かのように思えたのだろう。裁判は人殺しの道具になりうるということを言っている

■『三隅の真意は?』
結局のところ不明で、それがこの映画の醍醐味である。
観客は様々な想像をすることができるが、それは劇中の重盛同様に「自分の見たい部分だけ見ている」だけの可能性がある。
30年前に三隅を逮捕した警官が三隅を「何を考えているかわからない。空っぽの器のようだ」と評していたし、重盛もまた同じことを言っていた。空っぽの器の中身を考えることほど、無意味なことはない。無について議論したところで正解などあるはずがない。



最後にもう一度言うと、恐らく答えのない映画なので、自分なりの解釈を楽しむのがよいと思います。
このレビューは参考程度に読んでいただければと。
あしたか

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