道人

A GHOST STORY ア・ゴースト・ストーリーの道人のネタバレレビュー・内容・結末

2.9

このレビューはネタバレを含みます

ゴーストの時間を「体感」する不思議な映画。

私が観に行くことを決めたのは、やっぱりゴーストを白い布だけで表現したそのビジュアルのインパクトだったのですが、その「白い衣」がとても感情豊かで綺麗です。黒い穴がぽっかり空いた目の部分は底が知れなくて、その布の下は虚ろなんじゃないかと思うんだけど、肩のラインとか、生者だった頃の気配はあって。でも、「命のあかし」である「呼吸」は感じられない。
ケイシー・アフレックが実際にあの布に入っていたのかな。感情は確かに伝わってくるのに、生命の気配がない動きの表現が見事だなぁ、と思いました。

隣の家のゴーストとのやりとりも、最初はほのぼのとした感じで微笑ましかったんだけど、ゴーストになってまでそこにとどまることの目的の記憶すら薄らいでいくことの怖さ。それを目の当たりにして慄くCのゴーストの気配も伝わってくるので、Mがドアの隙間に残した紙片を取ろうとずっとカリカリ引っ掻き続けるCのゴーストの姿が胸に迫ります。

途中登場する「ヴェートーヴェンを通して人生と宇宙を熱く語るおじさん」の存在感がすごいですが、「私が存在した意味・証し」みたいなものを残すあてのない私のような人間が彼の熱弁を聞くと、いろいろ思うところがありますね。

隣の家のゴーストが「もう来ないみたい」と言って「ストン」と消えて無くなるシーンの鮮烈さと悲しさ。未練が強引に断ち切られた感じだったけど、あれも「成仏」のひとつのかたちなのかなぁ。ただ、彼女と接することで、Cが生前「歴史を感じるから」とこの場所になんとなく惹かれていた、その土地の歴史(悲史)に触れ、そのゴーストの存在した意味みたいなものがひとかけらでも彼の中に残ったのなら一つの救いかなぁ(生前のCも、失われた命が石の下に隠した紙片から伝わってくる何かに、土地の記憶を感じたのかもしれないし)。

CのゴーストがようやくMの紙片を手にし「ストン」と消えてスパッと幕切れ。その紙片に書かれていた言葉はゴーストを強引に「この世」から引き離すようなものだったのか、それとも…。願わくば、「彼がこの世に存在した証し」が感じられる言葉でありますように。


【2018.11.25 劇場観賞(2D字幕)】
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