真田ピロシキ

さらば愛しきアウトローの真田ピロシキのレビュー・感想・評価

さらば愛しきアウトロー(2018年製作の映画)
3.4
新聞の書評欄で蓮實重彦の本が紹介されてて面白そうなので買ってみたら最初でべた褒めされてたのが本作。

おおまかなあらすじとしては老銀行強盗フォレスト・タッカーとそれを追う刑事ジョン・ハントの追跡劇があるのだけれど、それを執念深く追いかけっこさせるようなタイプではなくてお互いの感情はもっとドライ。知らずに強盗現場に居合わせていたジョンの面目なんかは丸潰れしてそうなものだが格別に因縁が生まれてる訳ではなく仕事に過ぎない。しかし店で知っていながら放置したのは既に管轄を外れたとは言っても理解し難い。対してタッカーの方では担当刑事としてTVに映るジョンを挑発してて、この辺には人生を楽しむために犯罪に手を染めるタッカーの人となりが現れている。例えるなら銭形が熱くないルパン三世のようなものだ。蓮實重彦が特に感心してたのはサスペンスフルではあってもサスペンスとしては仕上げてない事で、確かに息を呑む瞬間と題材があるのに全体としての印象はむしろコメディ的な空気さえあって映画の佇まいが洒落ていると感じられた。ちょっと軽く映画でも見たいなーという気持ちの時に胃もたれせずに90分ちょっとで見れて、この映像配信全盛時代に適した映画と言える。

原題は『The Old Man&The Gun』で銃が主人公と同列に並べられているのだけれどその銃を全然映さないのがニクい演出。チラ見せの時もフレームには収まらなくてそれでかえって決して撃たない銃の存在感と効果が強調されている。最初に車のグローブボックスにしまうシーンが描かれているため持っている事自体は早々に明らかになってしまうのは勿体ないかなと思ったが、そういう小賢しいサスペンスに走る事自体したくなかったのかもしれない。

ロバート・レッドフォードは本作で引退するそうだが引退に華を添えられてるのか格好つけさせられすぎと思った。産まれた事を知ってるのかさえ不確かな娘に散々身勝手さを述べさせてはいるが扱いとしてはそれは若い頃のオイタだよテヘッくらいな感じで、全体としては人を傷つけず自由に生きたダンディお爺ちゃんみたいに描写されておりナルシシズムを感じる。まぁでも『運び屋』のイーストウッドに比べるとマシです。あれはちょっと気持ち悪いレベルだった。