フィルさん

彼女がその名を知らない鳥たちのフィルさんのネタバレレビュー・内容・結末

4.0

このレビューはネタバレを含みます

狂愛とも純愛とも取れる愛を描いた作品。
十和子は愛を知らずに生きていて、でもずっとじんじの愛に守られて生きていた。それを知るのは悲しいかな、じんじが死んでしまうときで。
じんじの愛し方は倫理的には間違っている。でも十和子にはそこまでしないと伝わらないし、何なら最期にならないと伝わらなかった。
じんじの言う「俺を生んでくれ」は最初、その意味するところはそのまま子どものことかと思ったけれど、考えるうちに「愛」のことだと自分は解釈した。
十和子が見上げた空を飛ぶ三羽の鳥。これはかつて関係を持った三人の男(これをじんじを含めた3と取るか、黒崎のおじと取るかは謎)が飛び立ち、無数の鳥が空を舞う。無数の鳥はじんじから受けた愛だと解釈した。
じんじの言う子どもは、その言葉通り子どもかもしれないけれど、とにかくじんじは十和子に「愛」を産んで欲しかったんだろうな、と感じた。
誰かを愛すること、愛されることで自ずと生まれる愛という感情。
それを無条件に与えてきたじんじは自分の亡き後、十和子には「生きて笑うこと」を願い、自ら愛を感じられるようになって欲しいのかな、と。
でもきっと空の鳥が表すように、十和子はじんじが死んだと同時に無数の愛を生み出した、と思いたい。 
フィルさん

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