岩嵜修平

彼女がその名を知らない鳥たちの岩嵜修平のレビュー・感想・評価

3.5
彼女がその名を知らない鳥たち

良作も、なぜ白石和彌監督…?

職人監督としての第一歩ということなのでしょうか。

『凶悪』『日本で一番悪い奴ら』と続いて日本に巣食う実話ベースの闇をほじくり返してきた白石監督。

次回作も、『サニー/32』『狐狼の血』と同じような方向性の作品を作っていて。

間に『女子の事件は…』みたいな、どうかしてる映画も作ってきたものの、あくまで遊び感覚のふざけた作品で。

『牝猫たち』では、バイオレンス描写は薄れたものの、しっかりリアルなダークサイドや人間の弱さを描いてきた。

本作もダークサイドを描いているという意味では共通するんですよ。
決して日の目を浴びることのない人々。
人間の弱さ、愚かさが故の過ちを描いているのも同じ。
そういう意味では作家性としては合っているのかもしれない。

バイオレンスシーンは相応の迫力もありました。

でも、この作品は純然たるラブストーリーなんですよ。
「共感度0%、不快度100%のラブストーリー」ってほど不快感は無かった(もっと不快になる映画はごまんとある)けど、主題は「愛」にあると思うんです。

だからこそ、脚本に『NANA』や『クローバー』『ごめん、愛してる』などの浅野妙子を持ってきたんでしょう。

でも、この食べ合わせが絶妙にイケてない。説明台詞は多いし、余計なシーンだらけ。
回想シーンなんて、台詞なくサラッとやるくらいで分かるんですよ。しつこい。

ラストなんか、完全に泣かせにかかってるんですが逆に冷めました。
うわー、音楽も合わせて涙こぼさせて終わらせるつもりだーみたいな。

過去作では、そんなあざといことやってないと思うんですよ。

阿部サダヲに蒼井優に松坂桃李に竹野内豊なんて、メジャーな役者さんばかり揃えたが故に、製作側も欲が出て、ラブストーリー推しで売り出そうとしたんじゃないでしょうか。

でも、それならば、白石和彌監督じゃなかったんじゃなかろうか。

商業性との狭間でブレた感じを受けました。

とはいえ、役者さんは皆さん素晴らしく。
蒼井優の身体の張りっぷりは『オーバーフェンス』以上。
現実世界で囁かれる魔性の女っぷりを逆に活かして役柄の幅を広げていることに逞しさを感じると共に、つい先日、東京国際映画祭で『花とアリス』を舞台挨拶付きで観た身としては複雑な思いにもなりました。

阿部サダヲも、彼ならではの役というか。何かしでかしてしまいそうな危うさと、何を考えているのか分からない目つきと、根っこにある優しさと。小汚い服装でも、決して嫌な感じがしない。

日本で主演を張れる俳優で、他にこの役が出来る人が思い浮かばないくらいぴったりな役でしたが、いかんせん説明台詞ばかりだったのがもったいない。

松坂桃李はこういう役が板についてきた感。
竹野内豊も見事なクソ野郎っぷりでしたが、ちょっと不自然な感じも。

総じて好きな作品ですが、脚本を変えられたら、もっと傑作になったかも…!
岩嵜修平

岩嵜修平