Ricola

テオレマのRicolaのレビュー・感想・評価

テオレマ(1968年製作の映画)
3.6
画面はセピア色一色で発する声なども聞こえない冒頭シーン。「明日着く」という電報のショットの後から、急に画面は色付き人物の声や生活音が聞こえるようになる。そう、ある男の訪問が明らかになってかは、カラーの世界へと変わるのだ。

名前も関係性も明かされない謎の青年は、あるブルジョアの家庭を訪問し居座る。それを誰も不思議に思うことはなく受け入れ、すぐに彼に魅了されるが、見えないところから徐々に蝕むように家族に変化がもたらされる。


彼は家族のひとりひとりと一対一で接する。彼と接触した後、なんだか心がざわつくよう。それは砂漠を風と光がなぞり、埃は立てずとも砂が少し動くほどの微すかな風である一方で、光は明確に動く。こうしたショットの挿入に表されている。セックスの後など、砂地というか小石なども混じった荒涼とした地に風がさっとなびくショットが一瞬入り、事後の様子を映す。風が通り過ぎていき、もたらすものは虚無感とざわめきである。

「平凡さが壊され」自分でも知らない自分に気づかされた。かき乱され狂わされ、本性が明かされた彼らはもう元には戻れない。空虚な人生の空洞を見てしまった今は、それ以前に戻ることができない。
「すべてを破壊しに来た」ことは解放へと人を向かわせるが、それはこの作品において社会体制に対してであり、それを悲劇的に見せることに意味があるはずだ。
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