TAK44マグナム

マザー!のTAK44マグナムのレビュー・感想・評価

マザー!(2017年製作の映画)
4.9
全てを分かち合うなんて出来やしない。
出来たとしても、それは悪夢だ。


本国公開時に問題作と話題になり、日本では公開中止、DVDスルーとなった、ダーレン・アロノフスキー監督の衝撃的な不条理映画。
主演はジェニファー・ローレンス。共演にハビエル・バルデム、エド・ハリス、ミシェル・ファイファーなど。

マーベル映画の「ブラックパンサー」において、ティ・チャラ国王が下した決断は「分かち合うこと」でしたが、真っ向からそれに待ったをかけるような、分かち合ったばかりにとんでもない事ばかりが起きてしまうという、これこそまさしく怪作中の怪作でありました!

どのあたりが問題となったのか、それは良く分かったのですが、確かに危険な描写がチラホラ・・・
特に赤ちゃんの件はヤバさの針が振り切れるぐらいヤバい(汗)
鑑賞するにあたって、女性は注意が必要だと思います。


舞台となるのは、ポツンと一軒だけ建っている詩人の自宅。
そこには詩人と彼の妻の二人が住んでいました。
詩人はどうやらスランプらしく、しばらく詩が書けていない様子で、妻はそれを心配しながら家の塗装やら何やらに時間を使う毎日をおくっています。
刺激はなくとも平穏な日々・・・
しかし、それも突然の訪問者によってかき乱されてゆくことになるのでした。

招かねざる客たちは、どいつもこいつも非常識。
厚かましさのワールドカップが開かれているのかってぐらい、全員もれなく厚かましい。
なのに詩人は追い返すどころか誰に対しても献身的であり、妻はそれに対し苛立ちをおぼえます。
前半のエド・ハリスの家族問題も大変なことになるのですが、後半は輪をかけてデンジャラスゾーンに突入してしまいます!
とにかく、凄まじくすごい事が次から次へと目まぐるしく起き、はっきり言って異常すぎ!
ジェニファー・ローレンスがアワアワとなっているうちに、二人の家は、まるで戦場の様相を呈するのです!

うわーっ、何がなんだか分からないけれど、本当にこいつは凄い!
凄い超展開でついてゆけません!
詳しく書きたいところなのですが、ここは実際に観たほうが驚愕の度合いが違うと思いますので、是非ご覧になって目が点になってください!
どれだけ映画慣れした方でも、こんなのは観たことないんじゃないかという一軒家スペクタクルが、まるでアルマゲドンのように炸裂しますよ!

あの、ハッチャケ過ぎたデタラメぶりも見事な一連のデストロイなシーンの謎の高揚感は何なのか?
もはや大掛かりなコント!
笑うしかない、というか実際、大笑いしながら観ていました。
ここまで突き抜けてくれたなら、もう何も言う事は無いです!
これこそカオス!
ギアがはいってからのスピード感は、これこそダーレン・アロノフスキーといった具合でした!


監督やジェニファー・ローレンスのコメントなどから、本作が聖書を下敷きにした寓話である事は明らかなのですが、何が何の比喩なのか等は詳しい方が観ればおのずと分かるでしょう。
残念ながら、宗教やら何やらには馴染みが薄いので全てを理解する知識に乏しいのですが、それはそれとして、個人的に本作は「女心が分からない男の話」なのではないか?という角度から解釈してみました。
自分も女性心理、とくに既婚者の心理がよくわからないクチなのですが、客観的にみてみるとジェ二ファー・ローレンス演じる妻の気持ちが何となく分かるような気がしました。
つまり、妻は自分を一番に想っていて欲しいし、彼を独占したい。
なのに、それがままならない。
二人の愛の巣を一生懸命守ってきたのに、そこに簡単に他者を招き入れる事への嫌悪感。
見も知らない者たちの侵食。
二人だけの世界のはずなのに。
しかも、彼は妻よりも他者に熱心に見えるのです。

詩人が何者なのかは、最後まで観れば分かります。
彼の目的も朧げながら理解は出来るのですが、妻の気持ちに気づかないままではいつまでたっても繰り返すばかりなのでしょうね。
彼は妻を愛しています。
しかし、その愛でさえも分かち合わなければならない。
それが詩人なのです。

だとしても、そんな男を愛し続けることが出来るのか?
妻から母親へと変わることによって、更に複雑化する愛。
二人の世界が無残にも破壊されるのは、結局のところ、「女心が分からないと最後に待っているのは・・・」という、極めて現実的な愛の終焉を描いているような気がしました。

ラストは、男の身勝手なロマンチシズムであって、最後に振り返るのがジェニファー・ローレンスでないのが、詩人の本質を表しているような気がしてなりません。

・・・と、そんな風に小難しく考えれば考えるほどスルメのように味わえる映画ではありますが、たんなる奇妙奇天烈なホラーとして観ても、それはそれでガッツリと存在感のある一作であることに間違いないでしょう。

アメリカ映画だと、よく自宅で開くパーティのシーンが登場しますよね。
誰だか分からないのまで勝手気ままに参加してはマリファナやったり酒を飲んで暴れたり。
寝室ではセックスに励んだり。
そこらじゅうを汚して、片付けもろくにしないで帰ってゆく。
あれの1000倍は胸糞悪い「ホームパーティー」が、やっとの思いで築き上げた「世界」を「汚染」し、「破壊」のかぎりをつくしてゆくとしたらどうです?
「リセットしたい」と思いませんか?


(愛と創生の寓話。
motherとearth。
母なる星に、果たして「七日目」は訪れるのだろうか・・・?)


完全にトチ狂っている暗黒映画でも宜しければ、嫌な気分に浸りたい時にオススメしておきましょう!
不条理で不可解、賛否両論上等のトンデモ必見作です!


セル・ブルーレイ(海外盤)にて