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ハウス・ジャック・ビルトのatsukiのレビュー・感想・評価

ハウス・ジャック・ビルト(2018年製作の映画)
4.0
ジャックは、規範を失った人間性を衒学的な引用で正当化させようとする。そんな独白の行く末がダンテの『神曲』をなぞるようだし、ドラクロワの絵画が動き出したようにもなる。ジャッキで撲殺された女性の顔にフアン・グリスの『Portrait of the Artist's Mother』(画家の母親の肖像)が重なり、『地獄篇』から一節を借りれば、「義憤の魂よ、お前を身ごもった方に祝福あれ!」。平川祐弘が訳註で、”キリスト教の隣人愛の訓にそむくものと考える人もいる”と言ってたけど、たしかにジャックはその論理を逆手にとって殺人をしていたと思う。ジャックの殺人という芸術が正当化されることはないけど、ミスター洗練の「ネガ」という示唆はあるべき。死とは生のネガである、はずだから。たぶんジャックは我々のウェルギリウスあるいはベアトリーチェなんだよ。ありがとう、「Hit the road Jack and don’t you come back no more」。自己欺瞞してる奴らはジャックとそんなに変わらないということ。
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