改名した三島こねこ

ハウス・ジャック・ビルトの改名した三島こねこのレビュー・感想・評価

ハウス・ジャック・ビルト(2018年製作の映画)
3.5
「出ていけジャック、二度と戻ってくるな」

「ならば私は地獄に落ちたい」

『ダンサーインザダーク』『ドッグヴィル』など数々の傑作を手掛けたラース・フォン・トリアー監督の最新作。独特の雰囲気を匂わせるのが特徴の同監督作品だが、本作もゴア系作品であるというのに相変わらずであった。

本作の主人公はテンプレのようなサイコパスのアイコンを引っさげてきている。強迫性障害の病名などわかりやすく彼を異常と示唆するのだが、かなり攻撃的な言い方をすると安っぽい狂人像だ。
しかし彼の哲学というのはあながち馬鹿にならないというか、作中でも引用されるマルキド・サド的なグロテスクの美に対する強い意識を感じられる。

このキャラクター性のチープさと明確な哲学の混在が本作のテーマを如実に表しているように思えてならない。

近年の話題となるそういった過激描写はジョーダン・ピールだったりクリストファー ・ランドンだとかのお上品なものが主流だ。『死霊のはらわた』だの『ムカデ人間』だのの低俗スプラッタなどが映画界のメインストリートに登場することは稀になり、その結果としてますますそのジャンルは尻すぼみになりつつある。

結果として私達は無意識下にヴァージの信奉するキリスト教的価値観(≒ポリコレ)を遵守した過度に倫理的に素晴らしい作品ばかりを礼賛し、ジャックの哲学(≒低俗映画)に二度と戻ってくるなと中指を突き立てるのだ。彼の持論を吟味したのであれば、それはいかに愚かしい短絡的な思考かわかりそうなものを。

本作は谷崎潤一郎だとか江戸川乱歩の作品がハマる人間には、ジャックの残虐行為にすら考察の目を向けさせられるメッセージ性の強い作品に思われる。ミスター洗練の犯行はどこかコミカルで、一部の観衆の琴線に触れずにはいられないのだ。マンハントの成果発表のシーンなどは残酷な美しさに震える。

長々と語ったのだが本作はミソジニストミサンドリストやポリコレモラル大前提などの偏重した思考傾向をお持ちの方にはオススメしない。貴方が倫理的な侮蔑を画面の外から向けている時、ジャックもまた嘲笑するような侮蔑を画面の中から向けているのだから。