きゅうげん

ワイルド・スピード/ファイヤーブーストのきゅうげんのネタバレレビュー・内容・結末

3.4

このレビューはネタバレを含みます

『ワイルド・スピード』最終章ついにスタート!
今は亡き元カノ・エレナには妹がいた!
ミスター・ノーバディには娘がいた!
麻薬王レイエスには息子がいた!
そして“ファミリー”は“レガシー”へ……。

子育て中のドムとレティに代わり、任務を遂行する“ファミリー”のメンバーたち。ところが回収したのは中性子爆弾で永遠の都ローマは大惨事。罠に嵌められたドムたちは国際指名手配犯となってしまう……。
そんな“ファミリー”の面々は一家離散状態のなか、これまで兵刃を交えてきたジェイソン・ステイサム、シャーリーズ・セロン、ジョン・シナとともに、過去の因縁から復讐の悪魔と化したジェイソン・モモアの挑戦を受けて立つ……!
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〈  To BE CONTINUED…//// |
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(♫イエス『ラウンドアバウト』)


三部作の構想とはいえ、……それにしても物語が無さすぎる!
群像劇で描く「ケイパーもの」や世界を飛び回る「スパイもの」など、シリーズの発展に合わせ吸収してきたジャンル映画的な要素が、ことごとく無意味で機能不全。
南極におけるミス・ノーバディによる脱獄幇助やその後のレティ&サイファーの喧嘩、あるいはロンドンにおけるローマンたちのネカフェ騒ぎ・倉庫騒ぎなど、目的も筋道もフワッとしてて取り留めがなさすぎ。
ストーリーが細分化されている割にまったく複雑でなく、それぞれに具体的な進展があるわけでもなく、場面が場面以上の意味を持っていません。
2時間以上かけてるのに、展開も構図もまったく変わらないってのはどうなの。


そして『ワイスピ』シリーズのテーマにして、最終章最大の命題である“ファミリー”。
本作においては「父レイエスー子ダンテvs父ドミニクー子リトル・ブライアン」というパラレルな対立構造になっており、“ファミリー”を重んじるドムが他人の“ファミリー”を破壊した、言うなれば「家庭崩壊もの」としての側面が最重要課題になってます。
リオの高架上でヘリに乗り込むダンテが「“ファミリー”の“レガシー”でいちばん大事なのはなんだ? 金でも歴史でもない、絆だ。お前はそれを奪ったんだ!」と突きつけるシーンをはじめ、ヴィランながらも彼は正論しか言ってません。
また「元カノの妹か昔馴染みか」という二者択一の爆弾レースや、「敵……かと思いきや味方……かと思いきや敵!」というエイムズの存在など、ダンテの仕掛ける挑戦は、そのままドムの“ファミリー”観を揺るがす本質的な問題提起になっています。
しかしクリフハンガーを理由に追及は棚上げ。
続き物のため仕方ないとはいえ、前作でもドムの過去や父・弟との関係など“ファミリー”問題はおざなりだった例があるので、テーマとして標榜する以上、最終章では深掘りしてほしいものです。


じゃあドミニク・トレットの言う“ファミリー”って何?
トレット家という血縁やストリート・カルチャーという地縁などはもちろん、それを中心に形成される擬似家族こそ、つまるところ“ファミリー”でしょう。
この疑似家族というものは、アウトキャストのアウトキャストによるアウトキャストのための、自由で多様なコミュニティを指しますが、ここで最も大事なのは、その疑似家族が“チョーズン・ファミリー”、つまり自ら選んだ関係性であること。

そもそも”ファミリー”のメンバーは、ブライアン・オコナーという存在を主軸として回る関係性でした。
初期作品においては、「潜入捜査もの」ということもあって、彼ら彼女らの関係性の機微にこそドラマ性があったものの、ブライアンの引退・エージェンシーの実行部隊化・メンバーの高年齢化にともない、その精神性は膠着したものに。
今回ダンテが挑発に用いた「“ファミリー”か否か」というコンテクストは、“ファミリー”にとって誰が中心で誰が周縁か、そしてそれを決めるのは誰かという問題をあぶり出しています。
全メンバーを緩やかに繋いでいたブライアンという存在なき後、その「空虚な中心」化が進み彼に対して自律的選択から絆を深めていたメンバーは、映画的定型化から「ドム親分と愉快な仲間たち」状態に陥り、国体明徴運動が加速してゆくこととなったのです。
ここにおいて“チョーズン・ファミリー”的な擬似家族の側面は失われ、いわばドミニク・トレットの家系……というよりセカイ系映画となるに至りました。


描かれているモノやその描かれかたにこそ難のあるシリーズですが、しかしまぁ場面だけみれば面白いところも。
ジョン・シナ演じるジェイコブ叔父さんと甥っ子LBのシットコム感はずっとニコニコで観てられますし、マジで無意味なネカフェ騒動ではガンギマリ・カップケーキだけメッチャ最高。訳わかんないけど。

そして何より、最強の悪役ダンテ!
モモアのノリノリ演技が相まって面白すぎるキャラクター造形になってます。モブ兵の家族人質作戦とかモブ兵の死体作戦会議とか、ドン引きとギャグのつるべ落ち。憎さあまって可愛さ10000倍って感じ。
最終章三部作最大の壁になること間違いなしの彼ですが、ドムとホブスにこれからどんな難題を課すのか、今後が本当に楽しみです。
誰が生きかえっても、もう何も驚かないですけどね……。