きゅうげん

ひろしまのきゅうげんのレビュー・感想・評価

ひろしま(1953年製作の映画)
4.7
原爆投下前後の広島を克明に描く戦争群像劇。
あまりにも突然すぎる“ピカドン”と、地上の地獄のようなその後の惨状。そして、戦後に人々が抱えることとなった怒りとやるせなさ。
なによりもショックなのは、日本人による日本人への差別意識。
白血病が発覚した同級生をおちょくったり「病は甘え」と突き放したり、あるいは急速な経済復興のなかで慰霊碑すら観光地的に消費する一方で、助けを乞う戦災孤児の実像には目を伏せる……。今も形を変えて人々の心に巣食っている人間の暗部です。


それになにより単純に映画として上手い。
英語をがんばる孤児たちのジュブナイル感や、主人公へ釘を刺す幼馴染の女の子の主体性、列をなして高台へ登る被爆者たちの一枚画の衝撃、暴走する軍部に呆れる学者の思いが例えられた虫など、細やかなシークエンスでもそれぞれの完成度は段違い。一時間半の上映とは思えないほど重厚濃密。
関川秀雄監督らしい作家性と職人気質の両立した、素晴らしい映画的魅力があふれています。
また、のちに特撮時代を築く高山良策の造形や、『ゴジラ』へ繋がる伊福部昭の音楽など、東宝出身スタッフのワザは勿論、月丘夢路と岡田英次の絵になる画面支配力たるや。
これほど様々な才能が結集し、広島の一般市民や地元企業も協力を惜しまなかったのに、胸を張って手を上げてくれる映画会社がついぞ現れなかったのが残念なところです。

当時、終戦からまだ十年未満でありながら、この映画がそう描いたように、そしてこの作品がそう扱われたように、単なる記憶の風化ではなく、腫物あつかいや無視など消極的な態度が国内に早くも蔓延っていた現実。
この映画の存在そのものが正しく歴史そのものと言えるのではないでしょうか。決して忘れてはいけない、忘れることを許されない歴史を、この映画は象徴しているのです。