きゅうげん

ウエスト・サイド・ストーリーのきゅうげんのレビュー・感想・評価

4.1
歴史に燦然と輝く傑作をスピルバーグがリメイク!!!

原作は、レナード・バーンスタインの音楽が素晴らしいブロードウェイ・ミュージカル。巨匠ロバート・ワイズによる1961年の映画はあまりにも有名で、洒落たオープニングと粋なエンディングが本当に最高です。
この物語は実際にあった“ラティーノ”と“アングロ”の抗争を素地としていますが、1950年代後半当時、マンハッタンの当地ウエスト・サイドでは、再開発でプエルトリコ系住民の多くが立ち退きを余儀なくされ、文化施設リンカーン・センターが建設。
同地区が混迷を極めるなかでブロードウェイ上演と映画のロケ撮影がされたことは、この物語が地元と文字通りに地続きであったことを物語るものです。

本作の冒頭はそういった事情を含意した、取り壊し現場という独自要素からスタート。再映画化におけるスピルバーグのスタンスを象徴するように映ります。
狂言回しのエニーボディズはトランスジェンダー性がより前景化、チコも単細胞ではなく真面目キャラゆえの悲哀にドラマが深化。
アニータが襲われる場面は、女性陣を挟むことで男性性の暴力の危うさが先鋭的に描かれています。
また、リタ・モレノ演じる薬局店主は白人と移民との愛を体現する存在ですが、しかし彼女の眼前で負の連鎖が繰り返されてしまう無常さ。単なるサプライズなキャスティングではなく、意味深長な登場人物改変になっています。


それにやっぱり撮影がスゲー!!!!!
序盤のダンスシーンや中盤の『アメリカ』歌唱シーンの凄まじさはもちろん、路地の水たまりとか決闘場で交わる影とか秀逸さも充分。めくるめく映像の魔法に多幸感がとんでもなく、二時間半ずっとウットリ。
クロイスターズ美術館の場面は、圧倒的な引きの構図から“結婚式ごっこ”のリリシズムまで、本当に素晴らしいシークエンスになっていますね。
ステンドグラスに彩られるふたりの愛の誓いは、「人種なんて関係ない」という高らかな宣言にもなっています。

あと、ベルナルド役のデビッド・アルバレスさんとリフ役のマイク・ファイストさんがスゴイ。ザ・歌と踊りのプロフェッショナルって感じのパフォーマンスがホントかっこいい!
……主役のアンセル・エルゴートがちょっと見劣りするほどです……(小声)


古典的名作のリメイクにも物怖じせず、仲間と若手と一丸になって映画を作れる、老いてなお盛んなスピルバーグには脱帽です。
クシュナーとカミンスキーとの両輪を伴って、まだまだ元気に映画道に邁進して欲しいものですね。