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ヘマヘマ:待っている時に歌をのakrutmのレビュー・感想・評価

3.8
12年ごとに数日間行われる秘密の祝祭儀式に参加した男性が起こした事件とその顛末を描いた、チベット仏教の高僧でありながら映画監督としても知られるケンツェ・ノルブ監督のドラマ映画。

架空の宗教的儀式に参加する人々を描くことで、人間の(悪い意味での)本性を暴き出す作品と言える。この宗教儀式に参加する人々は仮面とユニセックスの服装を身につけることで、お互いに性別や身分などの個人のアイデンティティを隠して「誰でもない者」となる。そのような人々が集団生活をしたときに何が起こるであろうか。性悪説に立つと、倫理観、道徳観が崩れていくだろう。この映画で描くのも、そんな性的な倫理観の喪失である。ストーリーが進まずに儀式だけを映す中盤はちょっと中だるみするが、後半に進むにつれて話が展開する。

テーマそのものはそれほど目新しいものではないが、仏教界の高僧である監督が怪しげな儀式を前衛的な表現で描いている点が見どころだろう。もちろん本作で描かれる宗教儀式は、いかにもありそうに見えるけれど、まったく架空のものであり、チベット/ブータン仏教とは全く関係ない。本作がブータンでは上映禁止となったのも、その辺にあるだろう。なお、SNSやネットの匿名性が本作のヒントになっているという話もあり、確かにそういう面は否めないだろうが、決定的に異なるのはその匿名性が全てか一部かという点である。ネットの匿名性は、人間の本性というよりは、多重人格性を発露させると言えるだろう。

ブータン映画として注目を集めた『ブータン 山の教室』の監督パオ・チョニン・ドルジは、ケンツェ・ノルブ監督の元で監督助手をしていて、本作では製作を担当している。ケンツェ・ノルブ監督は僧侶でもあるので、本来は監督が行うような対外的な対応はパオ・チョニン・ドルジが行っていたようである。
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