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ファースト・マンのJIZEのレビュー・感想・評価

ファースト・マン(2018年製作の映画)
3.4
1969年人類初の月面着陸という偉業を成し遂げたアポロ11号の宇宙飛行士"ニール・アームストロング"を軸に過酷すぎる訓練の実態や地上で無事を祈り待ち続ける家族の葛藤を描きだした劇映画‼︎本編で観客の笑いが一度も漏れない映画を久々に観た。それほど本気で主人公の重責を担う素性に対して無類の家族のカタチや散った仲間の命を背負わせ人間の血を通わしエモーショナルに描き込んだ実直なる映画なのだろう。まずチャゼル監督の作品群で代名詞とも称せる前作『ラ・ラ・ランド(2016年)』とは真逆なほど想像を絶する過酷なリアルを抽出して丹念に紡ぎだした実話映画に思える。また前々作のほぼボクシング映画だった『セッション(2015年)』と比較しても16ミリの超小型カメラで撮られ月着陸した後の水を打ったような静けさに包まれる無音描写などある意味で音が重要な役割を果たしている。両作品で共通する箇所が"夢を追う者(視点)"でフィジカルの面に比重を置いて犠牲や葛藤を本作でもアームストロングが乗り越える。単に月面着陸を美化したエピソードで終幕せず人間本来の内面の脆さを抽出した点はよかった。元々ニール・アームストロングに関しても教科書程度の薄い知識だったがここまで様々な人間の想いを背負って宇宙へ旅立ったのか…と正直度量の凄さに脱帽した。主演ライアン・ゴズリングのハンサムな風貌とアームストロングの寡黙で無口,冗談ひとつ口に出さない感じは人間性の魅力に乏しく映画的に書き換えるなら真面目すぎる気もしたがキャスティング的には合ってた気がしました。

→総評(寡黙な英雄が背負うさまざまな想いと影)。
総じてアームストロング自身の伝記映画としてはもの足りずジェミニ計画やアポロ計画のドキュメンタリ映像作品としてはほぼ完璧な内容に仕上がった本作に思う。いわゆる月面着陸の事実ベースで忠実に脚本を練り上げたため物語のサイド性が薄く全編は既存のレール上をひた走ってる感が否めなかった。もちろん主演のゴズリング自身もハンサムで役柄が様になってるが逆を返せば"ただそれだけ"である。早すぎる幼い娘の死や妻との葛藤など実像ベースで丹念に紡ぎ出されてはいるが映画用にそれを書き換えた際に果たしてそれはどうか…。チャゼル監督曰く宇宙描写などはIMAXカメラを使用して魅せる映像の臨場味や人類への偉業に対して敬意を表する真面目な部分にメッセージ性を置きたかったんだろうという熱い想いは十分伝わってくる作品でした。いわゆる莫大な宇宙をメインにとる映像体験が主体でアームストロング自身の気持ちの起伏が淡白だった印象である。また名台詞の"人間にとっては小さな一歩だが、人類にとっては大きな飛躍である"という本編白眉のエモーショナルが高まる場面や月面着陸した無音シーンの恐怖感とも取れる耳鳴りが聞こえてきそうな興奮は本作の製作が実った映像に思える。なによりチャゼル監督とゴズリングの座組みで次回の第三弾が製作されるのか…この組み合わせで怪物級の真っ正面から描いたエンタメ映画を観たい衝動に駆られた。終盤で主人公と妻が鏡一枚はさんだ面会部屋でニールが吐息で鏡を曇らせ妻にサインを送るシーンは象徴的でした。というようチャゼル監督の作品中では"遊び"に欠けたがアームストロングがやり遂げた功績はそのままにクレア・フォイ演じる妻の固唾を呑んで帰還を見守る家族の存在やマスコミ批判で逆風が吹き荒れるNASAに救いを任命される有能な男が背負い込む度重なる重圧をぜひ鑑賞環境が最もよいスクリーン劇場でぜひお勧めします。
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