チョマサ

ファースト・マンのチョマサのレビュー・感想・評価

ファースト・マン(2018年製作の映画)
4.0
2/22
デイミアン・チャゼル監督の新作なんですが、そこまでヒットしてる感じはないですね。『ラ・ラ・ランド』に続いて『グレーテスト・ショーマン』が当たったのを見ると、チャゼル監督のネーム・バリューはそこまでヒットに貢献しないのかもしれません。ミュージカル映画は今年はなかったかと思ったけど、そういやアナ雪2があるんですね
あと『ドリーム わたしたちの”マーキュリー”計画(原題Hidden Figures:)』が、そこまで当ってないのを見ると、宇宙を舞台にした作品も人気がないんだと思います。

それとこの映画のスタイルも理由で、とても見づらい画面になっているのも観客を選んでいたと思います。手持ちカメラやロケット打ち上げ時の振動による画面のブレ、コクピットの狭さと宇宙飛行士たちの状況を体感させるため、彼らに寄ったフレーミングを採用しているのでとても息苦しいです。60年代当時を再現するため日常シーンは16mmフィルムで撮って荒い画面にしているため、ざらざらした場面も影響しています。

そして宇宙飛行士たちだけでなく 彼らの家族が抱える不安とプレッシャーが描かれるのも見ていて気持ちよくなるタイプの作品ではないです。宇宙計画に携わった人々の生活を体験させて、不安と苦しさとプレッシャーを感じさせる映画になっています。そもそも序盤で娘が病気で亡くなったそのあとニールが宇宙計画に参加するので、仕事に打ち込むことで家族に向き合うのを避けているようにも見えます。この流れも暗い展開に感じます。ラストや月面着陸のシーンで娘を亡くしたことと家族の関係にケリをつけてまとめますが、それでもどこか重い空気が漂う映画になっています。

世間の声として、ラップ調の歌で白人が宇宙に行くことを揶揄した歌が出てきます。そしてTV番組に出てきたおじさんが宇宙に人を飛ばすなんて無駄だと批判しますが、このおじさんはテロップを見るとなんとカート・ヴォネガット・Jrです。SFの大作家も宇宙計画を批判してたことに驚いたんですが、これも時代背景が理由にあるそうです。twitterで渡部幻さんとフォロワーさんのやりとりを見たんですが、当時はベトナム戦争まっただ中、若者が戦地でどんどん死んでいるのにアメリカは月面にいる二人の男を心配していた時代背景を知ると、この発言の印象も変わります。
ソ連とベトナム、ふたつの国とアメリカは同時に戦っていたこと、そして黒人の描写も公民権運動があったのを考えると、当時のアメリカの混乱が分かる映画にもなっています。

なんだか難しいことを描いてる映画にも思えるんで、自分もぜんぶ分かってる気はしないんですが、苦しい描写ばかりじゃないです。特に冒頭の飛行シーンは空気の壁を破った瞬間を体験出来て、宇宙空間とはなにかが感じられる最高に燃えるシーンです。

そして、『ラ・ラ・ランド』から通じる狂気の描写も出てきます。娘をどう思っていたかが月面で分かりますが、厳密にはそれと月面着陸には何の関係もありません。仕事に打ち込むことで忘れようとしていたとも思えますが、それよりも仕事を成功させることでこの苦しさから救われようとしているように見えます。
『セッション』『ラ・ラ・ランド』そして『グランドピアノ 狙われた黒鍵』と一つのことに打ち込む人間を通して苦悩と狂気を体験させてきました。洋泉社MOOKの「鬱な映画」でノーラン、アロノフスキーと並ぶハリウッドの鬱映画作家として取り上げられてたんですが、そんな彼の作家性は、彼の企画ではない、この伝記映画でも表れています。

自分はこの映画は好きです。空気を破る気持ちよさも良かったからですが、この映画のニール像が好きなのが大きいです。時代に背を向けて、関心のあることにしか目を向けずにそれに打ち込む。ストイックともとれるし、家族との良好な関係を築けなかった破綻者ともとれる彼のキャラクターがとても印象に残るし、すごく共感できたからです。感動とは違うんですが、そういった人間がメチャクチャ好きですねー。
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