ガンビー教授

勝手にふるえてろのガンビー教授のレビュー・感想・評価

勝手にふるえてろ(2017年製作の映画)
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この映画はシーンごとに、グラデーションに富んだ複数のトーンの演技を松岡茉優という主演俳優に要求する。場面が切り替わるごとに、微妙に演技のトーンの置き所がころころ変わってくる。その複数のトーンに対して、松岡茉優は常に正確な理解において演技を投げ返して見せる。芸達者というか。しかもそれは、先天的/野性的な役者としての勘とかからもたらされるものではない。「ここではリアクションとしてこういう声の高さ、細さかつこういう穏やかさでしゃべるだろう」というひとつひとつのディティールをあきらかに計算したうえでアウトプットしている。そこに感服してしまう。

中盤で主人公がふいに歌いだすシーンがあって、これは本来なら結構な映画的飛躍なはずだけど、内面の心情が思い切り映像として外面のようすに転じてしまうという、ある意味ではミュージカルに通じた手法による映像が(最初はそれとはっきり知らされずに)ちょくちょく織り交ぜられているという構成になっているため、違和感なくこの場面に繋がっていく。

松岡茉優の演技と、そして演技における抜群の語り……その場面ごとの演じ分けは言わば現代人が抱える複数に分裂した人格のようなもので、その丁寧な演じ分けがあるからこそ、その果てに、彼女が混乱し、内面を口走るべきでない場所において衝動的に垂れ流してしまう瞬間には、ショックがあると思った。
ガンビー教授

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