よしまる

コロンバスのよしまるのレビュー・感想・評価

コロンバス(2017年製作の映画)
3.8
 汐留で開催中の「サーリネンとフィンランドの美しい建築展」。仕事ついでに行く予定だったのに、緊急事態宣言の延長でキャンセルになりチャンスを失ってしまった。悲しい。

 んで。サーリネン親子の建築物を舞台にした映画「コロンバス」を初観賞。
 フィンランドの建築家ながら、アメリカでの活躍が目立ち、ロスからNYに至るまでいくつもの建築を手がけているけれど、中でもインディアナ州コロンバスに残した3つの名作はその独創性においてエポックなものとして人気が高い。

 冒頭から息子のエーロサーリネンによるミラーハウスが登場。モダニズムの極致のようなシンプルで美しい空間にため息が出る。インテリアミッドセンチュー時代に活躍したアレキサンダージラードのデザインだそうで、こんなところへ行ったらいつまでも帰れなくなりそうだw
 続いてお父さんのエリエルサーリネンが晩年に手がけたファースト・クリスチャン教会。こうした垂涎ものの建築をガイドさながらに説明し始める主人公の女の子ケイシーに、建築学の教授を父に持つ韓国系アメリカ人のジンが「ガイドはいらない、君がどう感じているかを知りたい」と、たしなめる。

 なかなかドキッとする発言だ。フィルマに置き換えると、物語のあらすじや制作背景、監督やキャストのキャリアばかりに言及して、では自分はいったい何を感じたのかという独自の視点を持たないレビューみたいなもんだ。これは自分でも肝に銘じなくちゃと思った。

 そしてボーイフレンドを軽くあしらったり、互いの過去を少しずつ慎重に告白しあったりというフランス映画のような会話劇も、一周まわって新鮮。
 親子間の確執、男女のロマンスや友情といった人間ドラマを、割とドロドロと皮を剥いでいくように見せていってるのに、美しい建築をバックに存在の小ささを強調したり、シルエットで演出したりとカメラワーク=レイアウトにこだわることで、なぜか嫌味がなく、ほっこりとした感情のまま観ていられる。

 ケイシー役の女の子は初めて。一方のジンは「サーチsearch」のお父さんだった。
 このふたりの演技もまた、それぞれの抱える葛藤を表現するのが絶妙に上手く、起伏の少ない物語に深みを与えていた。

 小津安二郎大好きな監督でゴゴナダという名前の由来も読んだけれど、このデビュー作に限ってはその影響はあまり感じなかった。しかしこの先も憶えておきたい監督であることは確実で、次作はA24からのリリースとのこと。どんな景色を見せてくれるのかとすでに楽しみでならない。