逃げるし恥だし役立たず

蜘蛛の巣を払う女の逃げるし恥だし役立たずのレビュー・感想・評価

蜘蛛の巣を払う女(2018年製作の映画)
3.5
雑誌「ミレニアム」のジャーナリストのミカエル・ブルムクヴィスト(スヴェリル・グドナソン)と内向的な天才女性ハッカーのリスベット・サランデル(クレア・フォイ)が、スパイやサイバー犯罪者、腐敗した政府などの蜘蛛の巣のように絡み合う事件に立ち向かっていくベストセラー小説『ミレニアム』シリーズの第一部『ドラゴン・タトゥーの女』のヒロイン・リスベットの過去を解き明かすミステリー。前作の監督だったデヴィッド・フィンチャーが製作総指揮に回った、世界的ベストセラーのミステリー小説「ミレニアム」シリーズの第四作を映画化。
凍てつく冬が訪れたストックホルムで、特殊な映像記憶能力を持ち裏街道で名を馳せる天才ハッカーのリスベット・サランデル(クレア・フォイ)の元に人工知能の権威フランス・バルデル博士(スティーヴン・マーチャント) から依頼が舞い込む。自身が図らずも開発した核攻撃制御システムを米国家安全保障局(NAS)から奪還する依頼だったが、リスベットは奪還したシステム起動のパスワードを解析中に何者かにアジトを急襲されシステムが奪われる。依頼の裏の陰謀を探っていたリスベットは、幼少期の16年前に変質者である父の元に置き去りにした双子の妹カミラ(シルヴィア・フークス)の存在に辿り着くが、父の組織を受け継いだカミラが仕掛けた幾重にも張り巡らした狂気と猟奇に満ちた復讐という罠に嵌ってしまう。犯罪者に仕立てられて命を狙われるリスベットはミカエル(スヴェリル・グドナソン)達の協力で敵のアジトに侵入して制圧、そして最後にカミラと対峙する。
09年の怒涛の『ミレニアム』三部作、11年のハリウッドリメイク『ドラゴン・タトゥーの女』から八年を経て新キャストに刷新、ミカエル役はダニエル・クレイグからスヴェリル・グドナソンになり明らかに腕力不足だが若くて優し気なイケメンへ、リスベットとの年齢差とかキャラクターが薄過ぎるとかスッキリしないが別段ストーリーに支障はないため黙認できる、リスベット役はルーニー・マーラからクレア・フォイとなり可愛くなったが何処か弱々しくソフトな印象で、前作のリスベットと同一人物?となってしまうが今更云々言うのは無意味だろう。寧ろリスベットに前回無かった眉毛があるのが一番の違和感である。
蜘蛛の糸に絡まりドラゴンになって空を飛ぶオープニングのタイトルロール、重苦しい回想シーン、白い雪の中で黒を身に纏う登場人物にシルヴィア・フークスの鮮やかな赤が映える橋のシーンなど印象的で、北欧の清冽な冷気の中で全編渋めの青白い色調と静寂の流れの演出は相当水準が高い。凄まじい血と暴力のサスペンスだったフィンチャー版の様な事件がシリーズとして続くのかと思ったら、本作はストーリー展開はスピーディーだがハッキングと奪還の繰り返しでサスペンスとしてはあまりにも退屈で、苦しむ女性を助ける仕事人的なダークヒーローのエピソードも余計で、リスベットの家族と過去の話がベースの完璧に後付けな感じで、本作は単独作と考えればいいのだろうが、リスベットとミカエルの関係性の設定の変化、唐突過ぎる双子の妹の存在と、なんか色々と腑に落ちない。逆にアクションはスリリングで、敵に侵入されたアパートの爆破からバイクで脱出、パトカーに追跡されるも凍った湖の上をバイクで走り抜けて、銃撃戦の中で蜘蛛軍団にリスベットが素手ゴロで挑む、怒涛の展開はアクションヒーローの顔負けの爽快感がある。まあ、リスベットとクレイグと自閉症の少年アウグスト・バルデル(クリストファー・コンベリー)を脇に追いやり、NSAのキュリティ専門家のエドウィン・ニーダム(ラキース・スタンフィールド)が突如スーパースナイパーに変身してハッカー友達のプレイグ(キャメロン・ブリット)と大活躍ってどうなのよ?って展開もあるのだが…
著者スティーグ・ラーソンは『ミレニアム』のベストセラーを知る事なく急逝、未完の第四作を巡って原稿を所有する事実婚のパートナーと遺族が対立して交渉は頓挫、原稿を入手出来なかった遺族がダビド・ラーゲルクランツに代筆を依頼して書かせた為、設定こそ引き継いでるが本作の原作は『ミレニアム』『ドラゴン・タトゥーの女』の正式な続編とは言えない。サスペンス色を削ぎ落としてアクション色を強めた本作に不満の方々は、制作トラブルの内容の行方から次作も然程期待出来ない事から、本国スウェーデンで製作の『ミレニアム』三部作とハリウッドのリメイク版『ドラゴン・タトゥーの女』で完結させるのも選択肢の一つだろう。
原作はリスベット以外に主人公が複数存在する群像劇の面白いサスペンス作品なので此方を丁寧に映画化して欲しかったのだが、まさか良質なアクション作品に仕上がるとは思ってもみなかった。だがハリウッド版『ドラゴン・タトゥーの女』の続編と思わなければ、決して悪くない映画である。
時間が経って気の抜けたコーラのような感じ、とはいえコーラ好きならそれなりに飲めるのでは…面白かったんだけど、期待した内容ではなかったのが、ちょっと残念…