真田ピロシキ

EUREKA/交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューションの真田ピロシキのレビュー・感想・評価

4.0
前作ANEMONEから全く新たな物語に舵を取った完全新作画のシン・エウレカセブン。元々ロボットアニメにジャンル分けされるが主人公がロボットを駆って戦う姿がそれほど多くはなかった作品だけあり、序盤の鋼鉄の魔女によるファンネル染みたドローン無双やエウレカセブンの文脈にはなかった6体合体ロボ、逆襲のシャアのオマージュのようなシーンがあってもロボットが映画の中核とは言い難い。物語のメインになるのは前作で世界の反逆者となり力を失ったエウレカと新たな創造者となるアイリスによるロードムービーと作られた存在たるデューイ達による世界を巻き込んだ自己証明という哲学SFのような側面。

まずロードムービーとしてはこれが結構長く、幾度かデューイの襲撃を受ける事はあるが基本的には距離のあった大人と子供が次第にそれを縮めていく様子を地道に描かれる。最初はアイリスに憧れの表情で見つめられていたエウレカが上から目線で指図ばかりしてすっかり信用されなくなるのは自宅では酒を飲むか筋トレばかりしてたエウレカが如何に偏った10年を送っていたかを物語っているが、エウレカはTVシリーズを含めた無数のパラレルワールドを経験してる訳でそれならモーリス達のママだった事と矛盾してるような?でも大人になったエウレカを母性キャラにしてたら今時それはステレオタイプなので、母ではなくおば様として親しくさせたのは現代の子供と共にする女性キャラ像として上手く着地させたと思う。

デューイのテロリズムはエウレカによって作り出されたパラレルワールドの登場人物でしかない自分達の存在証明を突きつけるというもので、間違ってなければこれまでのあらゆるエウレカセブン関連作品がパラレルワールドなはずでそれを熟知したデューイは『ポケットが虹でいっぱい』における不名誉な小児性愛者の自分も知っているだろうから、そんな風に絶対者であるエウレカの匙加減で自己を設定されるとなるとああいう発想に至るのも理解出来る気がする。またレイが息子であるレントン喪失の哀しみを本当のものであってほしいと思うのもこの作り物世界のキャラクターである設定を意味あるものにしてる。レイのエウレカに対する憎しみは不妊にされた上に養子にしたレントンを奪われたという二重で子供をなくした事があり、加えてこの創造主への怒りが合わさって根深い。レントンを養子にしてビームス夫妻との関係を強めた意味がようやく本作で生きてきた。そんなビームス夫妻をエウレカと和解させられたのはシリーズを長く見た人なら感慨深いだろう。私はビームス夫妻が生きてるだけでも嬉しい。

前作で主人公だったアネモネは指揮官ポジションに収まりロボットアニメの性格が弱い本作ではいざとなったら自分から出るみたいな事を言ってても実際に昔とった杵柄で出撃したりはしない。せっかくのガリバージエンドも今回は出番無しでアネモネ自体出てる時間は多くない。しかしエウレカの「アネモネちゃん」にはあの出来事以降自分の少女性を葬って成長するしかなかったであろうエウレカが唯一時を止められた存在である事を込められていて、アネモネの存在の大きさを感じさせ尊い。登場人物に名前があったので出るとは思っていてもアネモネ以上に出番のないレントンは最後にラブの力で持っていってくれて、やっぱりコイツはサイコーの奴。ハートが分かってる。欲を言えばチャールズとレイには一目会ってほしかった。お前の事をエウレカと同じくらい愛してる人達だろう。

アクションはファンネルみたいなドローンが各所で大活躍。輸送機内におけるエウレカの生身アクションもキビキビした動きに見惚れる。またコロンビア上空の大破壊アニメーションなども大いに見応えあった。意味の分からない総集編だったハイエボ1の時はとんでもない駄作と思ったものだが、終わってみれば良かった。