いののん

ハートストーンのいののんのレビュー・感想・評価

ハートストーン(2016年製作の映画)
3.4
様々な臭いのする映画である。
釣り上げた魚をぶっ殺す場面、持ち帰った魚を放置し腐らせる場面、犬に噛まれた羊を殺すシーン、死んだ鳥、泳いでいる川(!?)の濁り具合、その川からあがる時に体にへばりつくもの、ニンゲンの血、唾液、狭い窮屈な人間関係・・・

ムッとする。息苦しい。どこにも逃げ場がない。


映画が上映されている間、体の中にいろんな臭いが染みついていくような気がした。その臭いがまとわりつく。振り払おうとしても、振り払うことができない。


いつも気づかないで過ごしているけど、そもそも生きていくコトって、こうやって様々な臭いに囲まれて生きていくコトなんだなって思った。この臭いを、劇場を出た途端に、すっかりなかったことにすることはできないと思った。この映画は、私にとっては臭いとともに思い起こされるものとなるだろう。


大人になることって、自分がカテゴライズされていくってことなんだろうか。
カテゴライズされないものは、排除されてしまうのだろうか。
分かりにくいものを、人はそう簡単には理解してくれない。理解しようとしてくれない。
彼ら(ソールとクリスティアン)自身も、外圧と内圧によって、苦しんで苦しんで苦しんで、その苦しみの果てに、少しだけ希望をつかんだのだと思う。相手を大切に想う自らの感情を肯定し、そのままの自分で生きればよいのだという、かすかだけど確実な手応えを。


友情なのか恋愛なのか、そんな区分けなんていらない。
自分の感情に、わかりやすい名をつける必要もない。
見てくれは悪いけど気持ちよく泳いでいくカサゴのように生きればよいのだ。
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