TOSHI

デトロイトのTOSHIのレビュー・感想・評価

デトロイト(2017年製作の映画)
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毎年、アカデミー賞候補と謳った作品が公開される時期だが、「アカデミー賞最有力!」と宣伝された本作は、一部門もノミネートすらされなかった。差し替えが間に合わなかったにしても、優良誤認の問題はないのかと思うが、人種問題で分断する現在のアメリカの状勢に合っていると思われた本作が、ゴールデングローブ賞に続きアカデミー賞でもノミネートされなかった事で、逆に関心が高まった。

冒頭、第一次世界大戦を挟んで起こった南部から北部へのアフリカ系アメリカ人の大移動の歴史的背景から、1967年のデトロイトでの史上最大級の暴動に至る状況が、アニメーションで説明されるのに意表を突かれる。本編の壮絶な展開が、想像できないオープニングだが、自動車産業で繁栄し、仕事を求めて集まった黒人が差別され、白人に支配されるデトロイトで変革が起こるのは時間の問題だった事が分かる。
ベトナム戦争から帰還した黒人退役軍人を讃える式典が行われる中、デトロイト市警による、黒人が集まる違法な酒場の摘発を契機に、12番街で起こる暴動の様子は、次々と色々な人物にフォーカスされ、群像劇の様相だ。誰が主人公とも分からないが、とにかく暴動が始まる息遣いがビビッドに伝わって来る。警察に加えて各州軍の州兵も動員され、街が戦場と化す中、白人のクラウス刑事(ウィル・ポールター)は、窃盗をした黒人を背後からショットガンで射殺してしまい、上司から叱責されるが、殺人罪に問われる事はなかった。掠奪者は犯罪者であり、盗みに入った時に殺人を犯していたかも知れない、取り逃がしたら警察のメンツが立たないと、発砲の理由を正当化するクラウスに唖然とする。
仲間の黒人達との無意味な衝突を防ぐため、州兵にコーヒーを振る舞っていた、食料品店警備員のディスミュークス(ジョン・ボイエガ)は、黒人少年が警官に暴行されているのを助けるが、アンクルトム(白人の言いなりの黒人)と逆に非難されてしまう。鑑賞前はボイエガが主人公だと思っていたが、どうも中途半端な立ち位置と、勇気ある行動を起こさないのが気になった。
地元のR&Bグループ「ザ・ドラマティックス」は、暴動でオーディションライブが中止となった上、バスが暴徒に襲われるが、ヴォーカルのラリー(アルジー・スミス)と友人フレド(ジェイコブ・ラティモア)は危うくアルジェ・モーテルへ逃れる。そして白人女性のジュリー(ハンナ・マリー)・カレン(ケイトリン・ディーヴァー)をナンパし、彼女達の友人である黒人男性のカール(ジェイソン・ミッチェル)達や、ベトナムの帰還兵・グリーン(アンソニー・マッキー)とも知り合う。そんな中、一人がおもちゃの銃を、パトロール中の警官達に向けて乱射すると、クラウス他警官達が乗り込んで来る。
狙撃手に銃撃されたと思い込む警官・州兵達による、犯人を特定するための尋問シーンが強烈だ。ラリー達を壁に手をつけさせて並ばせ、証拠もないのに一方的に脅し、暴行を加える警官達の非道ぶりが強い印象を残す。白人であるジュリー・カレンも、黒人といたからというだけで売春婦と決めつける。殺害される者も出る中、息が詰まるような緊張感が続き、尋問を超えた拷問の様相は、正視するのが辛い程だ。
後日、現場に居合わせたディスミュークスが受ける理不尽な仕打ち、更にその後、開かれた裁判の結果に打ちのめされる。ある証人が「この法廷には、正義など存在しない」と叫ぶシーンが象徴的だが、ラストのラリーの何とも言えない表情が余韻を残す。

キャスリン・ビグロー監督らしい、臨場感に溢れた、力のある映像が圧倒的な作品で、全体的には黒人寄りの視点で作られているが、白人ばかりを悪者として描いている訳ではなく、騒動の原因となった黒人や、黒人を助ける白人などの描写が、ステレオタイプではない事が良かった。
敢えて不満な点を挙げれば、事実の忠実な再現に縛られ、ドラマとしてのアレンジが弱い感があるのが、残念だった。事実を再現するだけでは、映画ではないのである(同じく黒人差別を描き、事実関係を含めてアレンジした「ドリーム」は、物議を醸したようだが)。何度か挿入される実際のニュース映像も、不要に感じられた。
しかし映像、メッセージ性などトータルでは、優れた作品であり、本作がアカデミー賞でノミネートすらされないのは、やはり白人に不都合な真実を描いているために、見えざる力が働いたと勘繰られても仕方がないのではないか。アカデミー賞で白人ばかり選ばれる傾向は昨年から変わったように見えるが(選考する会員に、女性や有色人種が増員された)、まだそういった、人種問題に基づく不透明な思惑が作用しているのだろうか。
私は、賞の獲得の有無で鑑賞を決める事はないが、人種問題を背景に変わるアメリカ映画と、変わろうとしているが変わらない映画賞の関係を考えさせられてしまう作品だった。
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