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マイヤーウィッツ家の人々(改訂版)のnetfilmsのレビュー・感想・評価

4.1
 早朝のニューヨーク州マンハッタン、娘イライザ(グレイス・ヴァン・パタン)を大学まで送るダニー・マイヤーウィッツ(アダム・サンドラー)はいつもの如くマンハッタンの交通状況に苛立つ。通りには建設中の建物が立ち並び、車道の両側には路上駐車の車が列を成している。後方からクラクションを鳴らされたダニーは癇癪を起こす。イライザが18歳になるまで娘の面倒を見たダニーは、妻のカレンと離婚調停中だった。曜日替わりで娘を大学まで送り迎えする夫婦の姿は、『イカとクジラ』においてジョーン・バークマン(ローラ・リニー)の家とバーナード・バークマン(ジェフ・ダニエルズ)の5駅先の仮住まいを兄弟が往復した様子と同工異曲の様相を呈す。その日の夜、ダニーの実家の食事会に呼ばれた父娘はダニーの実父ハロルド・マイヤーウィッツ(ダスティン・ホフマン)の歓待を受ける。姉のジーン(エリザベス・マーヴェル)も交えた食事会の席、ハロルドの側には3度目の妻となったモリーン(エマ・トンプソン)がいる。継母となった女のサイケデリックなファッション、貝の開いてないサメのスープ、イライザが12歳の時に作った曲の父娘の連弾。ノア・バームバックお得意の全員変人な家族の歪過ぎる関係は早くも明らかになる。

 5章仕立ての物語は、マイヤーウィッツ家の家人たちそれぞれの深刻な問題を照らす。家長で著名な彫刻家であるハロルドは『イカとクジラ』のバーナード同様に、栄光は既に過去のものになっている。盟友であるL・J・シャピロ(ジャド・ハーシュ)の個展会場で文句を言うハロルドの病巣。3度結婚した彼のだらしない離婚癖を、息子であるダニーや彼の異母兄弟であるマシュー(ベン・スティラー)も見事に受け継いでしまう。LAからNYの生家にやって来るベン・スティラーの姿は『ベン・スティラー 人生は最悪だ!』と真逆の様相を呈す。気難しい芸術家気質で、変人のハロルドに翻弄された異母兄弟たちの数奇な運命は、父親の病気を境に動き出す。建築家として、父親の家と作品を売りに出したいマシューとあまりの思い入れの深さに躊躇するダニーの対比、ジーンの幼少期の秘密のカミング・アウト、3兄弟はそれぞれに問題を抱えながら、「グループ展」の会場で大衆を前に大立ち回りを演じる。バームバックお得意の癇癪を起こす男たちの行動はビリヤードやポール・エプスタインへの車への殴打で炸裂する。家族の不和、居住空間の移住など散りばめられたノア・バームバックの手癖、ラストの第5章のぶっきらぼうな編集とダニーの口元のエクストリーム・クローズ・アップの高揚感がとにかく素晴らしい。
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