TAK44マグナム

シェイプ・オブ・ウォーターのTAK44マグナムのレビュー・感想・評価

3.8
おまえは神なのか?


南米で発見された両棲人間が航空研究所に運ばれてきます。
掃除係のイライザは、自分と同じように口がきけない両棲人間の事が気になり始めます。
ある日、「彼」が解剖されることを知ったイライザは、なんとかして助けたいと思うのですが・・・


これはおとぎ話なんですよ。
大雑把で、稚拙といってもいいぐらいに単純なお話なんですけれど、おとぎ話だからね。
デルトロ流の美女と野獣。
それに、子供の頃に観た大アマゾンの半魚人を加味して、美しいおとぎ話を作り上げたんですよ。
アカデミー賞に絡んでいるから色眼鏡で見られるけれど、デルトロとしては子供の頃から夢見ていた物語を自分の用意した予算で念願の映画にしたもので、きわめてパーソナルな作品なのでは?
自分の子供にベッドタイムストーリーとしてきかせる類のものというか。

社会的に、どちらかというと弱者が善人側で、強者が悪人側という構図も分かりやすい。
とにかく単純化しているので、ソ連のスパイとか、そのへんの話もかなり雑。
たんに研究所を脱出させるためのエクスキューズでしかない・・・ように見えるんですけど、あのドクターはたぶんデルトロ自身なのでしょうね。
大アマゾンの半魚人を観て、半魚人が殺される結末が許せなかったらしいので。
いかにも、異形のものを愛するデルトロらしいじゃないですか。

中盤までは、些か退屈でもありました。
1番の理由は、イライザがどうしてそんなに両棲人間のことが気になるのかが性急すぎてよく飲み込めなかったからなんです。
例えば、人魚になりたいと夢想しているとか、そういうのを挿入してくれればよかったんですけど、普通、あんなの見たら怖がるものじゃないですか?
未知の生物ですよ?しかも噛みつくし、叫ぶし。
最初に血だらけの部屋を見てしまっているし。
でも、けっこうすぐに両棲人間と打ち解けちゃうんですよね。
お互い孤独だからとか、可哀想だからとか、それは分かるんですけど、いくらなんでもそこは大事な掴みなのに雑すぎるんじゃ?と思っちゃいました。
きっかけが弱い。

しかし、研究所を脱出してからは良かった!
なんといっても幻想的なラブシーンが最高に美しくて惹かれました。
サリー・ホーキンスは役柄としてルックスが最適なのは当然なのですが、とにかく裸がキレイ。
まさかオーディションを裸でやったとは思えないけれど、あのラブシーンは絵的に裸のキレイさも重要だと思うので、まさに適役ですよ。
いちいち仕草も可愛いし、孤独な闇を抱えている内面もちゃんと伝わるし、偉そうな物言いですが申し分ないキャスティングだと思います。

それでも、キャラクターの中で一番深く描写されているのは意外にも敵役となるマイケル・シャノンなのではないでしょうか。
強くあれ!というマッチョイズムが、結果的に己を滅ぼすことになる担当官役。
あの人、いたって普通の人なんですよね。
普通に家庭があって、キャデラックなんかに乗りたがる、本当に普通のアメリカンカウボーイ。
そんな普通の人が自業自得とは言え可哀想でした。
まあ、嫌な男ではあるんですけれども、哀愁ただよう男でもありました。


何にせよ、あまりかまえないで観たほうが、より良く味わえる映画だと思います。
ほんのちょびっとだけ、最後で泣いちゃったなぁ。
あと、映画館の上に住むって五月蝿そうだけれど魅力ありますよね。
ちょっと住んでみたい。


劇場(シネプレックス平塚)にて