怨念大納言

シェイプ・オブ・ウォーターの怨念大納言のネタバレレビュー・内容・結末

4.4

このレビューはネタバレを含みます

キリのいいレビュー数まで取っておいた本作、700レビューを記念してついに書きます!

大学時代にパンズラビリンスを見てから大好きなギレルモデル・トロ監督がアカデミー賞を取ったということで、非常におめでたいお話。

SFであり、ラブロマンスであり、おとぎ話めいているのにグロテスク。

主人公は首に謎の傷があり、声を出す事が出来ない。同性愛者の画家のお手伝いをしながら宇宙センターの清掃員をしている。
彼女の日常はカントの如く時間にシビアで、卵を茹でる時間から自慰のタイミングまで決まっている。
貧乏で、ついでに美人とは言えない見た目をしている。

そこへ、アマゾンから捕獲されて来た半魚人が搬送され、軍人の指を食いちぎる大立回り。その清掃を任された事で、主人公と半魚人の交流が始まる。

青々とした皮膚はうっすら光沢を持ち、所々毛が生え、凶悪な牙と爪を持つ半魚人は、もう容赦なく半魚人。
現地で神とされていただけあって神々しいのは確かだけど、コレに一目惚れ出来る主人公は中々のぶっ飛びよう。

隙をみて忍び込んでは、ゆで卵で餌付けしたり、一緒に音楽を楽しんだり、お互い言葉は話せないながらも心が通ってゆくのがわかる。

半魚人は、ある人には貴重な実験サンプル。ある人には神。主人公にとっては孤独と退屈を埋めてくれる恋人。
当人達が恋人同士として幸福になろうとする時、外野が勝手な意味付けをしてしまう。現実世界でもあるのではなかろうか。

そんな半魚人と主人公のイチャイチャで終わるハズはなく、元軍人の責任者が、半魚人を拷問した上で、最終的には解剖しようとしている事を知る。

大ショックを受けた主人公は、同居人の絵描きに助けを求める。
ここのセリフは好きで、「彼は私の何が欠損しているのかを知らない。ありのままの私を見る。」。
勝手に人間の枠に押し込んで、それと合わない部分を欠損呼ばわりされて来たのだろう。それをせず、自身をそのまま写す半魚人の眼差しにホレたのだ。
人外だからほっとこうというドライな画家に、「助けないなら私たちも人間じゃない」と啖呵を切る主人公。根性あるじゃん!

一旦は拒否する根性なしの絵描きだが、行き付けのパイ屋のお気に入りに同性愛をカミングアウトして追い出される。そこで、自身も欠損により迫害されている弱者である事を思いしり、半魚人救出チームに加わる。

なんやかんやで掃除の相棒でお喋り黒人おばちゃんとロシアスパイで半魚人解剖反対派の博士の協力で半魚人強奪。
自宅の浴槽で飼育するという狂気の沙汰。

そこでまたイチャコラする半魚人と主人公、ここでセックスを描くのが凄い。
リアルな半魚人との恋愛を決して美化せずそのまま見せる。

半魚人海にさよなら計画の成功目前で、色々あって軍人に撃ち殺される半魚人と主人公。
激怒した半魚人が都合よく魔法を発動させ、銃創を消す。そして、軍人も魔法でぶっ飛ばすのかと思いきやシンプルに爪でブチ殺す!

半魚人は主人公を抱き抱え、深藍色の海へ飛び込む。
緑の海に、青い半魚人と赤いドレスの主人公。
光に揺れつつ見つめあっていると、主人公の首の傷が開き、まるでエラのように動き出す。
主人公も半魚人になったのか、元々半魚人だったのか、それともそのまま死んでしまったのか。
その後二人を知るものは誰もいない…。
みたいな話!

パンズラビリンスの時も、戦時下で「幸せだったのは夢だけ」みたいなメッセージがない訳ではないけど、本作は特にメッセージ性が強い。
半魚人が虐げられる者、足りない者の象徴で、味方は失語症患者とLGBTと黒人。的は白人の軍人。
この分かりやすさが鼻につくという意見は分かる気がするし、美しい幻想の世界に水を差したと思うかもしれない。

けれど私の感想は、そうした政治的メッセージを含みつつも色や音楽は大好きなギレルモ・デル・トロのだったし、生々しいファンタジーという点で好みのど真ん中。いい映画でした。
怨念大納言

怨念大納言