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あゝ、荒野 後篇のamuのレビュー・感想・評価

あゝ、荒野 後篇(2017年製作の映画)
5.0
前編で要らないなぁと思っていたサークル絡みの話、やっぱり要らなかったという感想。サークルにいた男子大学生がバリカンの父をボクシング会場に連れて行くためだけに存在したかのような、大掛かりな無駄を感じた。

社会奉仕プログラムについては、前編冒頭にて理髪店のお客さんがバリカンに愚痴ったあの一説で充分に伝わる。伝えたいこと、心に刻まれるシーンというのは往々にして一瞬の隙だったりするものだ。何を伝えたかったのかと想像したり考えることも映画の醍醐味ではあるが、見入っていたい新次と建二のことから逸らされ、長丁場にしてまで必要だったのかと首をかしげてしまう。

ノイズでしかなかったデモ行進シーンなど無くても、サークルの部長がグロテスクに血を吹き出さなくても、世の中の混沌ぶりは冒頭の爆破や先程も書いた理髪店にて流れていたニュースでわかるし、孤独を感じて人と繋がりたい、繋がれない世の中や人々については被災者であることを絡ませた芳子と母親の話で汲み取れる。(母親は出てこなくても良いくらいだった。)何より新次と建二が欲望の街と謳われる新宿(作品における物理的視覚的な荒野)の片隅で、それぞれに溢れるほどの孤独を抱えていたではないか。これが原作だとしても、削ぎ落として二人に焦点を当てたって充分だったと思う。


そして私は、自分で思っていた以上にバリカンのことが心底愛おしくなっており、二代目ばりにバリカン健二を応援していた。

でんでんさん、ユースケさん、前編序盤から本当に素晴らしかった。馬場さんはバリカンには特に親心のような愛で目をかけてくれていたように思う分、バリカンに駆け寄るシーンでは首を冷やしてあげる動きひとつにも溢れんばかりの愛情を感じて涙が止まらなかった。また、堀口さんがサングラスをバケツに入れるシーンにも心がぎゅっとなった。

それから「そこのみにて光輝く」に続き、絶賛させていただきます、高橋和也さん。私、ずっとバリカン戦をあなたと同じ表情で観ていました。


ありあまる伏線回収の無さ、バリカン戦における新次の母の不快かつ不要な叫び(タイミング的にも最低過ぎてドン引きしました)、新次が気を失った時に森の中を飛ぶ合成鳥、脱いだこと以外に必要性を感じない今野杏南などなど。必要な部分が浅く、不必要な部分が誇張される岸監督ぶりは今作でも健在でした。部分的にとても良いのになぁ… でもこれが岸監督の本質な気がしている。

主演二人とその二人を取り巻く人達の熱演、凄まじいボクシングシーンに切なく苦しく号泣し、トータルでは素晴らしい作品であると思いますが、残念部分が多いのもまた事実。

それから何気に好きだったのが新次、バリカン、裕二それぞれの登場曲です。三者三様とても合っていたし、特に新次の切ないギター音は彼にぴったりだった。原曲が気になり調べてみたところ、作品用に曲を作られた方の存在を知り、素晴らしい影の功労者に感動しました。

白い布が掛けられた人物の名前を、「建二」と書いたのか、「建夫」と書こうとしているのか、原作未読なこともありわからないけれど、新次と繋がりたかったバリカン、そしてその想いに応えた新次、その先にあったのは父との確執であり、歩み寄りたかったか、生涯受け入れないか、いずれにしてももうそれが出来ないことが哀しく、苦しいシーンであった。
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