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新世紀、パリ・オペラ座のくりふのレビュー・感想・評価

新世紀、パリ・オペラ座(2017年製作の映画)
4.0
【オペラ座の怪事と快人】

オペラ座のドキュメンタリーは相当数作られていますが、本作はその中で、フランス国内興収1位となったそうだ。確かにオモシロサでは、私がみた中でも一番でした。

その理由としては、オペラにもバレエにも素人だった監督のフラットな視点から、あくまで“人”を中心に追い、劇映画の如くドラマティックにまとめた点が大きいと思います。

本作はオペラ座の公式プロデュース作品と銘打たれています。実際、相当な共犯者的協力がないと撮れなかったろう…と思わされる映像が幾つもありました。

例えば、主役の女性ダンサーが今まさに舞台に出ようとする表情にギリギリまで迫り、舞台袖に戻ってからも、その死にそうな息遣いを押さえる。美しいが露悪的とも言える一瞬で、女性なら特に、あまり見せたくない面でしょう。が、これがオペラ座の本気としてズシリと迫ってくる仕掛けです。

こうした寄り添い方で、総裁はじめ、オペラ座のメンバーがまるで劇映画の登場人物のように見えてくる。さりげなくモンタージュされているところも何気に巧い。嫌味にならないレベルで、劇的にチューニングされています。

ウィット、という言葉をやたら意識してしまう、笑いの映し方も巧い。例えばオペラの舞台に、本物の牛!を出すことになった時…実際は次々とシリアスな問題が噴出するが、観客にはそのメイキングが、コメディとして映ってしまう。

一方、経営陣による会議風景も、こんなぶっちゃけたら、文化省が怒って財布の口閉じないか?と思わせるほどオモシロイ。

構成は、バレエよりオペラ中心です。私はオペラには未だ、さほど興味湧かないのですが、それでも本作は、映画としてグイグイ惹き込まれた。天下のオペラ座でも、公演二日前に主役が降板しちゃうことってあるんだね…他人事ながらハラハラ。

あと、ロシアの田舎から出てきた、バス・バリトン歌手ミハエル君のサクセス・ストーリーとしても興味深い。これ、ホントに映画みたいな展開でしたね。

劇映画風でまとまったせいか、逆に終盤に向け尻切れ感はありました。

劇場は“The show must go on”同時多発テロ事件が起きようが、舞台は続けなければならない…と宣言する劇的場面もありましたが、本作も、劇映画として結末を迎えることはあり得ない。そのジレンマに対し、巧い回答は見つけられなかったようです。

そんな不満点もあったものの、年初から善いドキュメンタリーに出会えました。金ばかりかけたハリウッドのリサイクル娯楽品などより、ずうっと様々なものが得られるから、今後も、こういう作品はどんどん公開してほしいものです。

<2018.1.3記>
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