TOSHI

ちはやふる ー結びーのTOSHIのレビュー・感想・評価

ちはやふる ー結びー(2018年製作の映画)
-
「上の句」、「下の句」を観て、映画としての突き抜け方に物足りなさを感じたため、劇場で観るか迷ったが、今回が一番良い可能性もあると思い、鑑賞した。舞台である東京・府中の映画館で、他の映画を観た時の予告で、「TOHOシネマズ府中でご覧の皆さまへ」と、広瀬すずからの劇場オリジナルのメッセージがあり、刷り込まれた事もあるだろう(笑)。Huluで配信された全5話の「繋ぐ」は未見だが、瑞沢高校・かるた部の二年生になった千早(広瀬すず)は、団体戦で全国3位になっていたようだ。

冒頭、個人戦での千早と準クイーン・伊織(清原果耶)との試合を含め、二年生時代を駆け足で見せるのに戸惑うが、主要メンバーの外見には殆ど変化がなく、「三度目の殺人」等で全く違う顔を見せていた広瀬すずがまた、ちはやふる仕様の顔になっているのには、逆に驚いた。千早の天真爛漫な魅力は、相変わらずだ。
クイーン戦はあっさりと、現クイーンの詩暢(松岡茉優)が制するが、名人戦で、千早の師匠・原田(國村隼)に圧勝した周防(賀来賢人)が、引退を宣言する(周防は、東大を4年留年している)。
試合を観た幼馴染の新(新田真剣佑)は千早に、またかるたをやると言った上で、好きな気持ちを告白するが、福井の藤岡東高校で、伊織と共にかるた部を結成して団体戦に挑む。
三年生になり、部存続のため新入生の勧誘に賭ける千早達だが、登壇した太一に惹かれ群がる女子を見ると、いつの時代も、イケメンが全てな女性の多さに呆れる。しかし部室での説明会に大勢集まった新入生達が、本気の競技かるたを見せられると、壮絶さに一気に引いてしまうのが笑える。結局、かるた経験者で態度がデカい秋博(佐野優斗)と、太一に恋する菫(優希美青)が入部する。
菫から共通の幼馴染の新が、密かに想いを寄せる千早に告白した事を知らされた上に、親の期待で東大理Ⅲ受験を目指すも成績が伸びない太一(野村周平)が焦点となるが、都大会の予選で、太一の意外な決断が明らかになる。
何とか全国大会に駒を進めた千早達と、勉強に専念し、偶然にも勉強会の講師をしていた周防(ある秘密が明らかになる)と、距離を縮める事になった太一が並行して描かれるが、全ては、クライマックスの全国大会に集約されていく…。サプライズのあるラストシーンが、余韻を残す。

前作からの、背面から光が射している映像や、スローモーションの多用に加え、札が光ったり、局面のポイントを俯瞰で文字を加えて見せる等の演出が秀逸で、また動と静のバランスに感嘆する。何度かあるアニメーションの挿入も、効果的だった。洗練度や完成度という意味では、シリーズ最高傑作と言えるだろう。
しかし特に青春映画において大事なのは、洗練度や完成度ではないのだ。高校最後の夏という二度とない時に賭ける想いのぶつかり合いが、映画としての全ての計算を凌駕するかのような瞬間こそが見たいのである。その点では、今回もまた不満が残った。
新入生等新キャラクターは悪くないが、脇役は、勉(森永悠希)・優征(矢本悠馬)・奏(上白石萌音)達で十分であり(今回もそれぞれ良い味を出しているが、出番が少ない)、キャラクターを増やすよりも、既に描かれてきた人間関係を突き詰めるべきだろう。映画として突き抜けるためには、やはり千早と詩暢の死闘に持っていくべきではなかったか(暗示はされているが)。詩暢の存在感は抜群だが、競技をするのは冒頭だけで、コメディ・リリーフ的な立ち位置になってしまっているのが残念だ。
本作のテーマは、周防の「強い人間は周りの人間も強くする」というセリフが象徴するように、団体戦にあるが、それなら唯我独尊で団体戦をバカにしていた詩暢が、団体戦に引き込まれ、千早達と対決する構図こそ、必要だったのではないか(団体戦で得た強みで、千早が詩暢に個人戦で立ち向かうでも良いが)。そしてその結果による千早の心境が、太一・新との恋愛関係に決着をつける事で、カタルシスは最大化したのではないだろうか(実際には、そうなっていない)。
百人の歌人達のある瞬間の感情を詠んだ歌が、千年の時を超えて、現代人に訴えてくる百人一首の素晴らしさを背景に、青春の刹那をスクリーンに焼き付けたという意味で、日本が世界に誇れる映画だけに、想像を超える瞬間を見せてほしかったと思う。
TOSHI

TOSHI