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ミスター・ガラスのnetfilmsのレビュー・感想・評価

ミスター・ガラス(2019年製作の映画)
3.8
 ケヴィン(ジェームズ・マカヴォイ)は今もなお、少女の誘拐を続けていた。だだっ広い部屋で、手錠を掛けられた4人のチアガールたち。流行りのDRAKEを聴きながら、七色の声色を使い分ける様子、少女たちは恐怖に怯えた表情を見せるが、悲鳴は外には聞こえない。15年前、痛ましい列車事故からただ1人生き残った奇跡のような男デヴィッド・ダン(ブルース・ウィリス)は愛する息子ジョセフ(スペンサー・トリート・クラーク)と2人、秘密裏に犯罪者を取り締まる活動を続けていた。すっかりヨレヨレになった緑のポンチョ、あの頃から薄かった髪は白髪になり、すっかり年老いた様子だが、『アンブレイカブル』で少年だったスペンサー・トリート・クラーク君の成長ぶりがとにかく微笑ましい。息子と協力し、自警団ごっこをするデヴィッドの目に飛び込んだケヴィンの誘拐事件の知らせ。犯罪者を撲滅したいと思っている男の元に、最大の敵は意外と早く現れる。『アンブレイカブル』〜『スプリット』に続くシャマランのスーパー・ヒーロー・トリロジー完結編は、ほとんど完璧な冒頭30分を我々に提示するが、どういうわけか精神病院に彼らを収容した時点から、アクションや物語など全てが弛緩する。

 『アンブレイカブル』から15年後の物語は、MCUやDC映画が跋扈する輝ける時代の湿った裏通りを極めて真面目に描く。シャマランの全フィルモグラフィの中で、最も力のこもった作品であることは想像に難くないが、大暴れを禁じられたスーパー・ヒーローたちの姿はどこかもの悲しい。自らの持つ特殊能力に気付かされたデヴィッドも、24もの人格の中から「ビースト」を導き出されるケヴィンも、いとも簡単に動かす寡黙なあの男こそが十字架に磔にされたイエス・キリストに思えてならない。光の点滅と水責めで風前の灯となったスーパー・ヒーローたちの力という業は、彼らを真人間という泥濘にじわじわと浸して行く。ここで媒介者となるのが、エリー・ステイプル医師(サラ・ポールソン)でも例の寡黙な男でもなく、彼らの弱みを一番近くで見守ってきた人間たちなのも実に痛ましい。徹底して父親を盲目的に愛した少年と父親に虐待され続けた少女の対比。2人のコミック・ショップの目と鼻の先での必然の遭遇もそうなのだが、遊園地の乱高下する異常な乗り物で、息子の名前を呼んだ母親(シャーレイン・ウッダード)の熱演が妙に胸に残る。

 呪文のような「ケビン・ウェンデル・クラム」の言葉、浸した水面と乾いたコンクリートの石肌、まるでロー・バジェットで禁忌されたようにも思えるシャマランのアクションは防犯カメラの映像や自由自在に動き回るカメラ映像を駆使しながら、スーパー・ヒーローの「モーション」ではなく、情念のような薄汚れた「エモーション」を切り取る。『アンブレイカブル』の奇妙な列車の到着と、今作のクライマックスは幸福な円環に彩られた数奇な物語を結ぶ。
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