かすとり体力

女王陛下のお気に入りのかすとり体力のレビュー・感想・評価

女王陛下のお気に入り(2018年製作の映画)
3.8
ヨルゴス・ランティモス監督作品。

本年、同監督の『聖なる鹿殺し』を鑑賞し心に深い爪痕を残されたのがあり、本作のタイトルだけ観て「あんな作品撮った人が、こんなヒューマン・コメディー的な映画撮れるのね」なんて思っていたところ、しっかりと同監督らしさ全開の作品であった。

私、同監督の『ロブスター』は観ていないため前作の『聖なる鹿殺し』のみとの比較となるが、やはり共通するのは「人間の弱さや嫌さをじっくり抽出し、特異な環境設定をアンプリファーとしてそれを増幅させて可視化する」という特性。

簡単に言うと人間の弱さを描くのが強みということだし、それ即ち「人間を描くのが上手い」ということでしょう。

本作においても非常に巧みに人間の弱さや嫌さを炙りだしているんだけれど、そればかりを前面に推し出すのではなく、人として強い部分や他人に優しい部分もしっかり描きつつ、その合間合間に「弱さが鎌首をもたげる」ように瞬間的にその姿を現すような塩梅、

つまり多層な複雑系としての人間を表現できているので、その描写にも深みが出ていると感じるところ。

そしてそれらの人間模様をメインで演じた女性3名は本当に素晴らしい。

アン女王を演じたオリヴィア・コールマンの凄まじさは言うに及ばず、やっぱり個人的にはアビゲイルを演じたエマ・ストーン。

「サラから追放されたかと思いきや…」の一発逆転のときに魅せた例の表情はすごすぎて笑うた。

一方前作と異なるのは、やはり純粋に一本の映画として非常に見やすくなり、大衆性を獲得したというところだろう。
ストーリーとしてもしっかりとロジカルに展開していく上に、外形的には「女性の出世バトルもの」という普遍性のあるテーマで単純に面白い。

また、これは前作にもあった「変な映像演出」が、グレートブリテンの大宮殿という一種寓話的な舞台を中心に展開する本作において「映画としてのルックの良さ」にダイレクトに繋がっているのが良い。

一種偏執狂的とも言えるシンメトリーな画面構成や魚眼レンズの多用といった要素が、舞台の非日常性をより高める効果を生んでいて、映像を見ているだけで眼福という良さがある。

ということで、同監督の個性は失わず、クセだけを薄めたような作品。これはつまり「成熟」と呼べるものでしょう。おすすめです。
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