矢嶋

女王陛下のお気に入りの矢嶋のレビュー・感想・評価

女王陛下のお気に入り(2018年製作の映画)
3.9
クラシカルな衣装や美術が素晴らしい。特に本作は宮廷ものであるため豪華な雰囲気が漂っており、視覚的な魅力が強い。

野心と能力のある女性による権力闘争という筋は宮廷ものとしてよくあるが、キーとなる女王が非常に不安定なのが面白い。
サラやアビゲイルと比較して醜く、彼女達に利用される等政治的にも見るからに無能だ。しかし、ストーリーが進むにつれて彼女の悲しみや疲労が垣間見えてくる。本編開始以前にもサラとアビゲイルのような争いはあっただろうことは容易に想像でき、今の不安定で弱々しい彼女はその結果として形成されたのではとすら思えてくる。だから、誰かに依存するしかなく、ひょっとしたらその裏にある野心にも気付いているのかもしれない。
そうした不安定な女王を演じたオリビア・コールマンは、まさに鬼気迫るといった素晴らしい演技だった。

演技の素晴らしさはエマ・ストーン、レイチェル・ワイズも同様で、主役三人の熱演だけで楽しめる。
権力を手にした華やかさはもちろん、そこに至るまでの苛烈な闘争、陥れられ没落した際の汚れぶり…裏に色々抱えていることを隠しながら、視聴者にはそれと伝わる表情は見事だった。権力に捉えた彼女達は俗物と言ってもよいのだが、ある種の気高さや誇りのようなものも感じさせる演技だった。
実際、サラは脚本的にもアンを操るだけでなく誇りのようなものを感じさせる。アビゲイルも、最初から野心だけだったのではなく、サラに疎まれ、その時点で成り上がることができる状況だったからああしたとも見える。何より、二人とも惹かれてしまう女王の気持ちが分かってしまう。

題材的に控え目ではあるが、ヨルゴス・ランティモス監督の趣味の悪さも見受けられ、権力者達の醜悪さも描写される。アヒルレースや鳥撃ち、女を当然ものにできると考える男達、陰湿ないじめや権力闘争…何より、オレンジをぶつけられる全裸のおじさんはその筆頭だろう。

総合的に、主演女優達の熱演や時代設定からくる美術、権力闘争による成り上がりと没落といった正統派な魅力に、監督ならではの魅力も絡んだよい作品だった。
矢嶋

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