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女王陛下のお気に入りのncccoのレビュー・感想・評価

女王陛下のお気に入り(2018年製作の映画)
4.2
あー面白かった。もう、大好物こういうの。
“The Favourite” 原題の方がしっくりくる。
お気に入り=寵愛と呼ぶべき宮廷寵愛略奪物語。

魚眼レンズで覗き込んだ歪んだ画面に低く鳴り響く不協和音。覗き見のような第三者目線を意識させる画面は見ていて居心地が悪いけれど、特有の小気味良さもある。「人の不幸は見ていて楽しい」この感覚の散りばめかたを監督は完璧に分かっていらっしゃる。

全て手に入れたはずなのに、勝利が嬉しいはずなのに。
決して超えられなかった壁、そして目の前に突き付けられた絶対的な主従関係。「あなたと私は目的が違う」の捨て台詞の意味を思いしらされる、彼女の高笑いがぐわんぐわんと聞こえるようなラストに痺れました。
終焉にかけて浮き彫りになる三者三様の愛と欲望のかたち、そしてそれぞれの孤独。

「三竦み」以外の言葉が思い浮かばない女優3人のバチバチの演技合戦。病弱で躁鬱の女王アン、側近のサラ、そして若き召使アビゲイル。どのバランスが崩れても成り立たない絶妙の均衡にして、どのキャラクターも捨てがたいが私はダントツでエマちゃんが好き。ビッチ極まりない何でもありのえげつなさで高みへ上り詰める下克上っぷりを観ていても彼女が嫌にならないのはやはり彼女が持つ何かによるものでしょう。キャリアの頂きに上りつめ怖いもののなくなった彼女の吹っ切れ感が若さの中にギラギラと瞬いて眩しい。これは、なんかもう、素直に嬉しい。今までのエマちゃんも好きだけどこれからのエマちゃんはきっともっと好きだ、と信じられる。この映画は確実にエマストーンの新境地であり、ターニングポイントになる作品。これを引き出した監督の手腕にはチャゼルも嫉妬で唸りを上げるであろう(そうであってほしい)。

それでもラストのラストに至ってはO.コールマン演じる女王アンの神がかった存在感があっぱれでした。
最愛の人を失った痛みを女王としての威厳に切り替え、ぽっかり空いた空洞を埋め生きていく、その生き方は、皮肉にもアビゲイルが導き、引き出したもの。
アンが「孤高の女王」に目覚めていくラストは「エリザベス」を彷彿とさせて、身震いが出ました。ここで影の薄かった女王の存在感がぐっと突きつけられることで、映画全体が引き締まり、作品が完璧なものになっている気がします。

豪華絢爛な舞台セット、モノクロのモダンなデザインのドレスたちにうっとり、眼福でおなか一杯。
まさかのロブスター再来に鹿のツノのディティールが過去作を思い起こさせて嬉しい。ラスト、“The Favourite”のタイトルもう一回ジャーンと出して欲しいなと思ったらちゃんと出てきて締めもバッチリでした。
ああ面白かった。ご馳走様でございました。

ちなみに一番好きなシーンは森の中での追いかけっこのシーンです。
もう一度観たい。
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