秀ポン

ザ・スクエア 思いやりの聖域の秀ポンのレビュー・感想・評価

3.3
「みんな尊重されるべき」という正義の、"みんな"から暗黙の内に除外されている人達が舞台に飛び出てきたときのきまずさ。
そんな感じの映画。
映画内では尊重は思いやりと呼ばれ、"みんな"とそれ以外の人を分ける境界がスクエアによって表現されている。

ほぼ全編居心地の悪いシーンなので、見ていて非常にしんどい。しかしツッコミがあったらめちゃくちゃ面白いだろうな。1番面白くなりそうだったのは脅迫状を送る一連のくだり。
日常の中の、まだ名前の付いていない気まずいシーンを抜き出すのは、東京03のコントっぽい。

この映画では"みんな"から除外された人々が数多く登場するんだけど、どいつもこいつも非常にイラつく描かれ方をしている。

卑語で公開インタビューをぶち壊す男のくだりでは、男に対してもそうだけど、
「すみません、夫は病気なんです」
と申し訳なさそうに言うものの、しかし決して連れて帰ろうとはしない妻にもイラついた。

他には、職場まで来て大声で昨晩の自分達のセックスについて喋る女にもムカついた。特に騒音で会話が中断された時の顔!!口をポカンと開けたあの顔!!
このシーンの直前に、主人公は別のスタッフに「彼女はどうせ話を理解できない」と言っており、彼女はここでは"みんな"から除外されている。スクエアの境界線は場によって引き直される。

そして本来尊重されるべき彼らに対してイラつくのってどうなの?っていう風に、意識は映画を見ている自分自身に向かっていく。自分の感じるイライラや気まずさの是非を問わされる形で、観客という安全圏から引き摺り出されてしまう。

「みんなを尊重しましょう」というのは正しいことだと思う。しかし社会的な場は全員が一定以上の秩序を守れるって前提で動いているので、本当にだれもかれもを受け入れた場合その場は破壊される。この映画では卑語男や猿男がその例だ。
なので「じゃあどうすればいいってんだよ!」というのがこの映画を見た感想。

イライラさせられるし面白くない。しかし印象には強く残るし、そこまで含めて監督の狙い通りなのだろう。それにまたイラつかされる映画だった。あと長すぎ。
画面を貫通してこっちを刺してくる度合いが強いので同監督の「逆転のトライアングル」よりはこっちの方が好き。

──その他、細かな感想。

・脅迫状を送る一連のくだりは本当にコントみたいだった。ツッコミさえあればケタケタ笑いながら見れたと思う。
スラムで「正義のテスラ」浮きまくっとるやんけ。
後部座席から運転席に移る心の機微もすげー分かるんだよな。はたから見たら、スラムに停められたテスラの後部座席に1人で座ってんの意味わかんねーもんな。運転席に座っていればまだ「あえてこの場所に停めてるんですよ」感が出るもんな。
そして立ち去ることにすら失敗するという情けなさの極致、こういうのほんと好き。
(又吉の火花でも、1番好きなシーンはケータイのストラップがベンチに引っかかるシーンだった)

・スマホを盗まれたという点で主人公は純然たる被害者なんだけど、脅迫状を送るという行為はめちゃくちゃ加害者的だというのも面白い。

・脅迫状を書くのにコミックサンズは確かに良くないな。

・卑語のシーンでは「映画館でもこういうことあるよな」と思った。上映中ずっと咳してる人とか。生理現象だから仕方ない、と自分に言い聞かせてもやっぱりイライラはする。
咳と同じようにイライラを感じること自体も自分の意思ではどうしようもないことだと思う。自分の意思でどうにか出来るのは、感じたイライラにどう対処するかという段階。

・もちろん怒りすぎて話の通じない子供にもムカついた。
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