MasaichiYaguchi

ザ・スクエア 思いやりの聖域のMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

3.9
現代美術館の著名なキュレーターが被った災難の顛末を描く「フレンチアルプスで起きたこと」のリューベン・オストルンド監督最新作は、世界で拡大する格差による階層化、その事による他者への無関心や差別、更にSNS等のネット社会をはじめとした表現の自由に関する問題を辛辣な笑いを交えて浮き彫りにしていく。
アート全般が好きで年に何度か美術館に行くが、この映画ではキュレーターを中心に企画展等の展覧会の舞台裏や、美術館支援者向けのイベントが描かれていて興味を惹かれた。
本作では主人公でキュレーターのクリスティアンが次の展覧会で「ザ・スクエア」という新展示物を打ち出そうとしているのだが、そんな矢先に突発的災難に遭ってしまう。
タイトルにもなっている「ザ・スクエア」は「思いやりの聖域」をテーマにした参加型アートで、その四角に囲われた中では「すべての人が平等の権利を持ち、公平に扱われる」をコンセプトにしている。
ところが、高尚で理想的なコンセプトを掲げたアートとは裏腹に、クリスティアンの災難に派生した行動は真逆の方向に暴走しているように見える。
そして、彼が災難絡みで暴走している傍らでは、時を同じくして「ザ・スクエア」のプロモーションが暴走し始めてドミノ倒しのように事態が手に負えぬ程に拡大していく。
この「ザ・スクエア」だが、映画では様々なシーンで「四角」が象徴的に登場して意味を投げ掛け、そして本作のテーマの一つ、「階層間の断絶」を隠喩する螺旋階段が重要なシーンで出て来て印象に残る。
果たして、始めは一つの厄災だったことが一大事になってしまったクリスティアンは、どのような結末を迎えるのか?
思えば映画のスクリーンも横長の「四角」であり、本作は現代に溢れる様々な社会問題をその枠組みの中に網羅しようとしたのかもしれない。